いのちのかまど
三木成夫という人の本が面白いです。
以前「内臓とこころ」(河出書房新社)
という本を教えてもらって読んだのですが、
ものすごく端的にいうと、
心や、気持ちというのは、
自分の意識の産物だと思っていたけど、
実は、
お腹減った、とか、トイレ行きたい
みたいな
内臓的な働きの影響が、
気持ちとなって表れている。という。
谷川俊太郎さんが詩を書いた
「この気持ちはなんだろう」という歌が
あったけど、
それは、あなたの内臓の状態です、と
三木さんなら答えるはずです。
*
そして、内臓は、
動物的ではなく、植物的だと。
植物は、季節や朝夕の時間のリズムで
咲いたり、枯れたり、種を落としたり
を繰り返していますよね。
で、その季節や朝夕のリズムって
つまり「太陽と地球の動き」のことで。
大げさに聞こえるかもしれませんが、
これはそのままの意味で、
太陽系(もっというと宇宙)の動きと
一緒のリズムで生きている、
ということなんです。
*
それは、植物だけではなくて、
人間の内臓も同じ。
内臓(または気持ち)は
ぼくやあなたの意志ではなく、
宇宙のリズムで動いている。
「ぼく」という自分がここにいる
と思いながらも、
一方で、自分の体の箱の中には、
太陽系(宇宙)の流れで波うつ
「ぼく」とは別の、
神秘的な天体が光っている
ということなんです。
宇宙とか、神秘とか、だんだん
スピリチュアルなワードが出てくるから
科学とは遠いように感じますが、
解剖学者というか脳生理学者であり
養老孟司さんの先輩にあたる人が
そう言っているので、
本当にそうなんだっていう気がしている。
*
ここからが本題で、その三木さんが
「海・呼吸・古代形象」(うぶすな書院)
の中で、
呼吸について書いているとこが
これまたハッとさせられたんです。
“「動物」の呼吸は
「植物」のそれとくらべて、
およそ比較にならぬくらい旺盛なもの
であるという。
すなわち、
獲物をもとめて動かぬかぎり
自らの生命を維持することの
できない動物たちにとって、
この推進器(感覚ー神経ー運動の
いわゆる動物性器官)を働かせる、
いわば「ガソリンの燃焼」は
どうしても必要となってくる…”
…読んでいて、まるで自分の体に
蒸気機関車のかまどが
あるかのように思えてきます。
さらにこれは寝ている間も
行われているので、
休むことなく、ずっとうちわを
手であおぎ続けるように燃やし、
動くエネルギーにし、
その分、けむり(炭酸ガス)を追い出す。
”つまり自分の「いのちのかまど」に
しっかりと息をさせてやらねば
ならないのである。”
*
ぼくがなぜ、ことばが好きか、
というと、
こういう短いフレーズだけで、
ぱっと目の前のイメージが変わって
人生そのものがきらきら見えてくる、
からなんです。
人がなぜ呼吸をするかって、
それは、体の中のいのちのかまどを
絶やさず燃やしているから
なんですね。
なんか、鬼滅の刃に出て来そうな
ファンタジー感が半端ない。
でも、これが本当なんです。
ファンタジーが実際に目の前に
起きている。
と思わせてくれるから、
科学の話は好きです。
2021/05/31