三方一両損について
数字に騙される、ということは
自分の気が付かないところで
たくさんありそうだ。
次の問題が難なく答えられる人は
安心してもいいかもしれない。
*
3人がホテルで30ドルの部屋をとった。
3人はそれぞれ、10ドルづつ払った。
しかし、受付係はその部屋が
実は25ドルであったことに気付く。
返金しなくては、と、1ドル札を
5枚用意したが、どのように
3人に分けたらいいかわからず、
1人に1ドルずつ返金し、
残りは寄付に回すことに。
さて、ここからが問題。
宿泊客である3人は、30ドルを払い
3ドルを返金されたので27ドル支払った。
つまり、1人9ドルを払った。
ここに寄付に回した2ドルを加えると、
合計29ドル…。あれ、
1ドルはどこへ消えたのでしょうか?
*
おわかりだろうか?
答えは「消えていない」。
ホテル代25ドル。
寄付2ドル。
これで3人が支払った27ドルになる。
27ドルの中には、寄付に回した金額が
すでに含まれているはずなので、
本来であれば2ドルを引き算するはずを
なぜかさらに足し算しちゃって、
謎の数字が出てきてしまった。
ということ。
だけど、一見すると分からない。
数字というのは、直感的に受け取ると
間違うことがあるらしい。
ぼくも、答えを見るまで
分からなかった。うーん、詐欺にあっても
わからなそうだ。
*
ところ変わって、
落語の「三方一両損」を
ご存じだろうか。
江戸時代、大工の落とした財布を
金太郎という男が拾って、届ける。
が、大工はいらない、お前にやる、と。
おれも拾った金はいらないよ、と。
結局、奉行所に。
奉行所の大岡越前は、大工の3両を
没収したうえで、二人に2両ずつを与える。
●大工は3両失い2両もらい1損。
●金太郎は3両もらうところを2両となり1損。
●越前は、3両もらうが4両失い、1損。
これで三人とも1損。めでたしめでたし。
という話。
この話も、最初のクイズみたいに、
どこがおかしいかを探したくなる。
実際「納得がいかん」という人がいる。
この場合は、
「拾った人は、得しかしてない」と。
だから、三方一両損ではないと。
あるいは、
規則もない行き当たりばったりの
判決はひどすぎる、とか。
でも反論をあげたところで無意味なんです。
だって、この話がどこか怪しい、
というのは言うまでもなく、
分かっていることだから。
ここに出てくる登場人物は
江戸っ子の大工職人という、
ひねくれものの、がんこもの。
「一度落とした金には、
二度と敷居を跨がせない」。
「拾った金なんかいらない」
という特殊な人たち。
普通なら、得をしないと、
納得できないけれど、
損をしてこそ、納得するという
例外中の例外の出来事。
そんな頑固者たちを、ころっと
納得させてしまうトンチを繰り出し、
2人を手玉にとる奉行に
拍手を送りたい気分になる。
人をだますと、詐欺。
でもその場に応じた解決策を
規則に縛られず画策できることは
トンチと呼ばれる。
トンチなら、だまされたいと
思う。
2019/07/10