ことばのロボットいろはちゃん 更新2020/8/5

雪原のリスになる方法

最後まで読んだことがないのに
大好きな小説があります。

それが「塵よりよみがえり」(河出文庫)。
ブラッド・ベリの中でも、
時々思い出す、忘れられない一冊。

特に第四章「眠れる者とその夢」、
第五章「さまよう魔女」。

正直その他の箇所は、
昔に読んだきりなので記憶がないか、
途中で読むのをやめたかで
ほぼ知らない。

これを機会にもう一度
読んでみよかな。

とにかく、
なにが良いかと言うと、
瞑想に役立つんです。

この本は、分かりやすく言うと
アダムス・ファミリーみたいな
幽霊や妖怪の類の一族の話。

その中でも、四章、五章では
一族きってのべっぴんで、
特別な力をもったセシーという
名前の娘(年齢不詳)が主役。

いわば寝たきりで、
部屋の外へ出られない。

改めて今読むと、
なるべく外へ出ないようにしている
自分たちと、
似たような状況じゃないかと思う。

で、そのセシーのなにが特別か、
というと、
「他人の耳に触れ、さらには
心の内側、それどころか夢のなかにまで
触れられる能力がそなわってい」る、と。

つまり、どんなものにでも
のりうつることができる力。
「天気と遠い場所のことばを聞き、
この丘のむこうで、さもなければ
右手の海と左手のもっと遠い海で
起きていることを知る。
たとえば、北から吹いてくる
長い歳月をへた氷や、メキシコ湾と
アマゾンの原野からそよそよと吹きよせる
永遠の夏の消息を。」

この世界の、どんなものにでも
宿ることができる。
ネットみたいじゃんと思うけど、
五感まるごとってかんじ。
もっというと六感まるごと、
かもしれない。

「風を集めて通し、
世界をわたるジェット気流にその声を
乗せる」

ジェット気流というと、
上空1万メートルくらいの高さで、
日本の頭上では偏西風といって、
地中海からモンゴル、中国を
西から東へと吹いている風。
ちなみに赤道直下あたりでは、
貿易風と呼ばれる。

つまり、帯状に地球をめぐる風のこと。
まるで、セシーが空気そのものとなって
世界中の命の視線に触れていくような
想像がふくらんでくる。

秋風になり、クローバーの吐息として
さわやかに飛び、鳩に宿って空を翔け、
葉に宿って生き、蛙や、澄んだ湧水に宿る。

毛むくじゃらの犬に宿れば駆け回り、
大声で吠えては、遠い納屋の壁から
返ってくるこだまに耳をかたむける。

「タールのたまった道路の上で、
すっきりした形のコオロギの体を
借りたかと思うと、
つぎの瞬間には鉄門のついた露に宿って
プルンとふるえた。」

空気は想像以上に、びっくりするくらい
ぎゅうぎゅうに詰まっている。
すきまなく。
血のなかにも、骨の中にも、
目にも、空気は入り込んでいる。

だから僕たちは空気を感じない。
だって自分が空気そのものだから。

空気の重さは感じないが、
こっちとあっちで、空気の重さに
変化が起きると、
重い方が、おっとっとと、
バランスをくずして倒れる。

それが風で、そのときに感じるのは
重かった方-軽かった方=風の強さ。

差分だけを感じることができる。

それだけ、空気と一体なっている
自分を思うと、
セシーが空気を介して宿る描写も
すんなりイメージがつく。

日々、気持ちは重い。

そんなとき、湯船で
深く呼吸をしてみると、
吐いた息が換気扇をぬけて
上空へのぼり、ふくれあがる。

そのうちジェット気流にのって
たとえば、カナダあたりの
静かな雪原に、冷えて降りてくる。

その時に
ぱっと顔をだすリスの呼吸に
飲まれ、そのまなざしに
宿るようなイメージをする。

次の瞬間には、
粉雪をはじいて、すばやく
姿をかくし、
その時に鳴いた「きゅっ」という
声の息(ちいさな湯気)となって、
しばらくその場に浮かんでいるような。

そんなとき、
どんな言葉も意味をうしなって
その場所に、ただいるだけ、という
透き通って、おだやかな気分が
心にいっぱいになる。

おためしあれ。

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