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貴重なはずかしさ

あたらしく何かを描いたり作るときは、
あの人に見せようと決めて取りかかります。
 
中学の頃に描き損ないの漫画を
描いていたときも、あいつに見せたらとか
あの人に自慢できるだろうか、とか
そういうことを頭の中で巡らせながら
ひとりでどきどきしていました。
 
特にそれを、たとえば体育の先生とか
二つクラスの離れた気になる女子とか
(ちょっと自分からは離れた人)に
見てもらうことを想像すると、途端に
恥ずかしくなって、描いたものを
破いてしまいたくなるのでした。
 
かいほうするクマ089
 
ああいう感覚はいまだにあります。
作っていて想像すると一番こわいのは
友人の小学生と年中さんの女の子。
 
彼女たちと絵本を並べて眺めていると、
つまらないとか、よくわかんないとか、
ずばっという。これ、ぼくがすごく
尊敬している絵本なんだけど…
と思って冷や汗が出る。
 
大人は心が広いから、理性で判断して
「よい」ということがあるけど、
子どもは心から面白いと感じなければ
「よい」とはならないらしい。
 

 
こないだ参加させてもらった「いろは展」にも
子どもが沢山いてどきどきしていました。
彼らが補集合の本や、新作のおりおりえほんを
手にとって読んでくれると嬉しいし、怖い。
 
本大好きオーラが出ている眼鏡の男の子や
お父さんに読み方を教わった女の子が
最後のページまで立ち読みしてくれたあと、
ちいさな声で「ねえ、これほしい。」と
いってくれたのが、ここ最近でいちばんの
幸せだったと思います。
 
けれど、おりおりえほんは、こちらで
ある程度案内しないと、読み方が難しい。
読み聞かせるお母さんお父さんに
まずはわかってもらいたいのだけど、
説明しないと、それもちょっと難しい。
これは反省点。
あのはずかしい感覚が蘇ってきました。
 
でもこのはずかしい体験ほど
貴重なものはないと思います。
おおきなかぶ」を描いた佐藤忠良は
こんなことを言っていたそうです。
 
「わたしたち彫刻家のやっているのは、
粘土をこねて、恥かいて、汗かいて、
失敗してやり直す、職人の仕事なんです。」
 
作家だけに限らずサラリーマンにだって、
誰にでも当てはまることだなと思う。

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