ヒキガエルの改心
ケネス・グレーアムの
「たのしい川べ」(岩波少年文庫)を
読みました。訳は石井桃子。
主人公はモグラとネズミなのだけど、
後半あたりから
ヒキガエルってのが活躍する。
この人が自分と重なってしまって、
読んでいてハラハラする。
*
ヒキガエル君は、
豪邸屋敷のお坊ちゃんなのだけど、
抑制がきかないお調子者。
車を乗り回して事故をおこし
警察沙汰になり、
行く先々で迷惑事を引き起こす。
唯一の美点は心から反省の色を
見せることなのだが、すぐに
気分を取り戻し、自分のことを
自慢に思ってしまう馬鹿で
「高慢ちき」な奴なのである。
挙句の果てに、
とうとう牢屋に入れられる。
「これで世の中はおしまいだ。
すくなくともヒキガエルの前途は、
おしまいだ。」と涙をこぼすのだが、
あることをきっかけにして、
脱走が成功する。
それを自分の実力だと思い込み
気を大きくして、出会う人ごとに、
騙し、盗み、また事故をおこし、
警察におわれながらも
なんなく逃げおおせてしまう。
自分のやったことが
うれしくてたまらなくなり、
「やっぱりヒキガエルだ!
最後には、いつもヒキガエルの
勝ちなんだ!」とさけぶのであった。
*
しかし、家に戻ろうとすると、
ヒキガエル屋敷はイタチどもに
乗っ取られていた。
そしてまた、今までの自分のことを
馬鹿だったと反省するが、
アナグマ、ネズミ、モグラの三人が
強力な助っ人となり、屋敷を取り戻す。
そして、その三人はヒキガエルを
強くたしなめる。
これを気に、人格を見直せ!という。
しかし懲りないヒキガエルは、
三人に内緒で自分のしてきた冒険談の
歌と公演パーティを企てていた。
*
ここまで読んで、ぼくは苦しかった。
どうしてどうして、
ヒキガエルは、心から反省するそぶりを
見せながらいつも友人を裏切るんだ、と。
そして次を読んでさらに苦しくなった。
もうすぐパーティが始まろうという時、
ひとりヒキガエルは部屋に
閉じこもって、歌をうたう。
観客を想像しながら、
渾身の感情をこめてうたう。
そして、そのあと、
ながいながい、
深いため息をつく。
*
いざパーティが始まってみると、
ヒキガエルはすっかり改心して
自分の自慢話などせず、
アナグマや、ネズミや、モグラの
おかげで屋敷を取り戻せたのだ、
と感謝を述べ、自分以外の他人に
関心を寄せる。
ここで、本当にヒキガエルの心が
動いたのだ。
いままでの自分が本当に
間違っていた、と、
あの「ため息」で悟ったのだろうか。
じぶんの誤りを認めるのは、
身をちぎるほどの恐ろしさだろうな。
ぼくは、読んでいて、
自分もヒキガエルだと思った。
しかしぼく自身、ヒキガエルのように
改心できているのか、
と思って、恐くなるのでした。
2012/06/21