ハルゼミの丘で
早朝が好きです。
いろんなことが大丈夫に
なったような気がする時間帯。
人生のエアポケットに転がり込んで、
これまでのいろんなことから
切り離された、という気分になれる。
朝起きてすぐ出掛けるので、
着替えるとか、顔を洗うとか、
ごはんを食べるとか、
そういうことを一切せずに、
そのままふらっと外にでる。
まだ半分夢の中みたいなまま、
夢遊病さながらに扉を開ける。
なんというか、パジャマだし
「おばけ」みたいだなと自分で思う。
思うが、なるべく思わないように、
平気な振りをする。
だって、この「ベッド to 外」という
直結感がたまらないんだもん。
*
昨日は小雨が降っていたので
新聞紙を持っていった。
途中、お気に入りのベンチに座るためだ。
丘陵の雑木林に入り込んで、すこし山道を登る。
2分足らずで「ハルゼミの丘」に着く。
赤松に囲まれた即席の深淵というかんじ。
ベンチに慎重に新聞を敷いて、
しばらくぼーっと座る。
*
すると草かげから黒い犬があらわれた。
全速力でこちらに走ってくる。
驚く暇もなく、
逃げ腰になりながら立ち上がろうとしたが
あ、新聞紙、新聞紙、とか思っているうちに
犬に捕まってしまった。
尻尾をバシバシぼくの脚に当てながら
はぐはぐしてくる。
うおうお、と思っていると、
続いておじさんが歩いてきた。
「こんな雨なのに、よく散歩してますね。」
と話しかけられて、一瞬言葉に詰まって
「あ、ほら、早朝のエアポケットが…」
と言おうとしたが、そんなこと言ったら、
本格的におばけだと思われてしまうので、
「い、いやあ朝の散歩は気もち良いですし。」
とどぎまぎして答えた。
*
別れてから気がつくと、
おじさんは、しっかり緑の合羽を羽織っていた。
丈夫そうな長靴で一歩一歩泥の坂を登っていく。
自分を見下ろすと、半パンにビーサン。
まるで雑木林の中に自分のベッドがあるかの
ような違和感がある。
心ばかりが、気持ちいい、と肥大して
実際体がここにある、という意識が無い
ということのはっきりとした現れではないか。
頭でっかちの現代っ子のわたしです。
脚がたくさん蚊にさされていました。
2012/06/18