もう一人のわたし
自分が二人いたら、と想像してみる。
一緒にどこへいくだろう。
何を話すだろう。
…こう具体的に考えると楽しい。
一人では考えつかないことも
なにか形になりそうな気がする。
「なんか良いな」と感じながら、
誰にもうまく伝えられない事がある。
そんな事も思い切って
意見を出し合えば
きっとなにかの発見になる。
なぜなら相手は同じ自分なのだから。
予定を立てる時、アイデアを練る時、
行き詰まった時、一人で困った時には、
もう一人を用意すればいい。
まずはきれいな部屋を想像する。
外の景色も深い森の澄んだものにして、
室内の間取りを都合の良いように決め、
コーヒーをいれて、
もう一人の自分を向き合わせる。
こうして相手(自分)に
悩みの子細を打ち明ける。
*
スタインベック短編集(新潮文庫)
「白いウズラ」にも
同じようなことをする人物が出てくる。
美しいメアリーという娘。
彼女は理想の庭、理想の家を
ずっと夢想していて、結婚してから
それを完璧に実現させる。
何よりも自分の庭を愛し、
熱狂的に大切にしていた。
ある夜、庭に鋏を忘れてきたので、
外へ出ると部屋の中が見えた。
さっきまで座っていた場所に
もう一人の自分がいることを
想像して、愉快な気持ちになる。
そしてこんな場面。
「もしわたしが二人の人間になれたら—
『今晩は、メアリー、庭へいらっしゃい』
『まあ、すばらしい庭ね』
『ええ、わたし、とても好きなの。
ことに、この時間はね。
ちょっとメアリー、静かにして。
小鳥たちをおびやかせちゃいけないわ』」
と、自らと会話をしながら
胸をいっぱいにする。
こういう密かな悦楽を見つける一方、
夫には理解してもらえずに苦しむ…
*
自分ほど同じ他人は他にいない。
だからこそ「自分」と二人でなら
具体的な感覚を形にして、
共有できるのでは、と思う。
2013/03/25