ことばの薬局
最近は、どこで本を得るかというと、
もっぱら図書館。
よほどの新刊以外は、
たいていどの本も蔵書されているので、
ほんとうに便利。
そんなわけで、本屋離れしていましたが、
数店舗の古本屋さんが集まって
出店している特設会場とやらが
近所にできたというので行ってみました。
*
行ってすぐ分かるのは、
あ、これはいい出会いの場だなと。
いくつもおもしろそうな、
濃い本がたくさんならんでいてワクワク。
あとで調べてみると
図書館にも蔵書がある本だったりするけど
保存庫に入っているのも少なくないから、
その本の存在を知っていないと
絶対に見つけられない、という本や、
そもそも図書館にないような
レアな本もときどきある。
そういう珍しい本が手の届くところに
ならんでいる。
好きなのがあれば、お持ち帰りもできる。
古本屋は本の出会い系だと思う。
500円くらいなら入場料とっていいのに。
*
ぼくはそこで、
『ケストナー博士の叙情詩家庭薬局』
(かど創房)
という本を見つけました。
医学書のような佇まいなので、
ケストナーって、あの児童文学で有名な
ドイツの作家ケストナーのことか?
と思って見てみると、本当にそうで。
一時期ケストナーは片っ端から読む
というくらいはまっていたので、
そして大人向けの詩集も出している
という情報だけは知っていたので、
まさかこんなところで
出会えるとは、と感動。
心の処方箋としての詩なのだそうです。
1936年のチェコで出版された本。
当時ドイツではナチス政権下。
政府に好まれない本は焼かれ、
出版もできない。
なら、外国で本を出そうと。
ドイツにも外貨獲得になるので、
チェコで出版するならよし、
ということになったみたいです。
この本には、薬と同じで
処方用途があります、
…が、ぼくは、まずこの本を
ぱーっとめくって目にとまるとこだけ
軽くつまみ読みしてみました。
なんだかとりとめがなく、
おもしろそうな感じはするが、
よく分からないな、と。
*
最後までめくっていくと、
この本の「もくじ」はなぜか
さいごのページに追いやられている。
あれ、と思って、最初から
丁寧にめくっていくと、
ケストナーお決まりの序文が。
(ケストナーと言えば序文の名手。
本によっては、本編が始まるまで
40ページ以上も膨大な序文があって、
本に入る前のぼくらを
ていねいにおもてなししてくれます。)
「レッテルの貼っていない薬びんは、
薬びんのないレッテルと同様に役に立ちません。
家庭薬局の内容がどんなに豊富でも
使用法とレッテルが貼ってなければ、
なんの意味があるでしょう?
全然意味がありません!家庭薬局は
毒薬の戸だなになるでしょう。」
「そういうことを考慮して
私は見出し語の索引をこしらえました。
それは序文の次にのっています。」
そうか、最初に使用法も見ないで
読んではいけなかったのだ、と反省して、
ページをめくると、もくじのような体裁で、
「使用法」というページがありました。
…続きはあした書きますが、
同じ内容でも、貼るレッテルによって
効能が変わるというのも
言葉のふしぎの一つだよな、と思って
感心してしまいました。
2021/06/16