38億年の実家
好きなことに集中するって、
むずかしいって知ってましたか?
なぜなら、説明不可能だからです。
*
客観的に考えてみて、
「人には好きなことが必ずある」
と想像するのはたやすい。
そして、
「好きなことなんだから、
そこに没頭することも可能であり
そう難しいことじゃない」
という結論に至るのも、
まあ、童心があれば、そうだろうと。
じゃあ、じっさい自分自身の
好きな事に没頭していいよと
1年間くらい与えられたら、
ずっと没頭できる自信はどのくらい
ありますか?
なかなか難しい気がする、と
ぼくは思うんです。
*
人が何かを好きになる、
というのは、特殊能力の萌芽なんだと
思うんですよね。
ぼくの場合なら、面白い本の一節を
読んだとき、
好きな画集をぱっと見た時、
散歩しながら思いに浸る時
この感じをぎゅっと抱きしめたい
と思えるような、
心のなかの実家に帰ってきたような、
そんな気分になったりします。
それって霧のように掴みどころがない
自分だけの心地いい部屋にいるような
感触です。
だけど「いいなあ」と思い続くことが
なければ、
その霧の部屋はすぐに晴れてしまう。
*
晴れてしまうにも理由は
いくつかあって、
他に気が散ることたくさんあるとか、
社会的なつながりをもたなければ
とか、
そして、好きなことを「言葉」で
説明して、自分自身をふくめ
人を説得することができないから。
だから、魔法のように意のままに
いつでも「心の実家」を
呼び寄せることがむずかしい。
自分でも正体が良くつかめないので。
*
それでも、
いま、自分が描いている絵、文章、
作ろうとしている最中に
あ、この気分、この気分、
という感触が湧いてくると、
うれしくなります。
それをなにかしらの形に
なるまで突き詰めていって
はじめて理解が得られる。
いい夢を見ているときの
居心地と似ているのかも。
そういうときって
なんか脳内で快感を促す物質が
分泌されているんじゃないか。
どこに、なにに対して
分泌物が出るか、なんて、
自分が決めたことじゃないし、
おおいなる生命の神秘ってかんじ。
たかだか数千年の「人」が作った
社会や言葉よりも、
生命が誕生してからの38億年の
神秘の方をぼくは信用したいなと思う。
2021/06/05