worksは8/24に更新しました.

語感で風景をあじわう

これはフェチといっていいのか、
きもちよい語感を浴びたい
という気持ちがある。

どんなのかっていうと…、
立原えりかの「花びらいかだ」から
抜粋。


その夜は、星が、あんまりいっぱい
でていましたので、
町はふかいみずうみのそこへ、
しずんだようでした。

みちも、なみ木も、ずっとたかい
ところにたっているヒライしんも、
星からおちてくる、
あおいしずくをあびて、うっとりと
ねむっていました。

うーん。ここちいい。
ひらがなが多いのが
やさしい印象を与えてくれる。

夜空と、湖とを結びつけて、
星からは、あおいしずくが落ちてくる…
まるで世界がさかさまになって、
空に深い水が沈んでいるかのような
印象を持たせてくれる。

ポイントは、避雷針。
まるで雷を思わせる鋭さが、
星のかがやきを強めてくれるような
言葉同士がきれいに反響し合って、
ひとつの風景となっている。

一倉宏「ことばになりたい」より
抜粋



ほら
磨かれた
グラスの中に
朝の光とつめたい
ミルクが注がれるから
カリカリに焼いたベーコン
をのせたサラダなら あなたは
残さず食べるから すべては思い
どおりではなくても …

これは、実際の本では
消え入りそうな新緑色で印刷されていて、
改行によって段落全体が滴のかたちに
模られている。

語感のトーンと、色と、レイアウトが
こんなにもマッチするのか、と
目からウロコな一篇。

「プラム・クリークの土手で」
ローラ・インガルス・ワイルダー
恩地三保子訳
より以下抜粋。


わらは、日光に照らされ、あたたまっています。
小麦の粒を噛んでみたときより、
ずっといい匂がしました。
ローラは、わらに顔をうずめ、ぐっと目を
つぶると、深く深くその匂いを吸いこみました。

黄金色で、ふわっとした空気に
つつまれたような気持ちになれます。

「水晶」
シュティフタ―
手塚富雄・藤村宏訳

雪山で夜を過ごす二人の兄妹が
空のあけていくのを見ている
というシーン。


緑にかがやき、しずかに、
しかも生き生きと、
星のあいだを縫って流れた。
と見ると、弓型の頂点に、
種々な度合でひかっている光の束の群が
王冠の上べりの波形のように
立ちのぼって、燃えた。
その光は、あたりの空を照らして、
あかあかと流れた。
また、音もなく火花を散らし、
静かにきらめきながら、
ひろい空間をつらぬいた。

シュティフタ―は、自然を観察する
人なので、その分描写も事細か。

ちょっともたつくようでもありながら
ゆっくりと、太陽のひかりがはじける
様子を描いている。

特に「音もなく火花を散らし、
静かにきらめきながら」
ここがいい。

音がないって、
遠くにあってそれゆえ巨大なものってかんじ。

もっとあるけれど、
きりがないので、これでおしまい。

物語であれば、
風景(やその様子)の描写と、
物語を進行させる描写とが
まざっているけれど、
ひたすらきれいな景色を描写しつづける
文章というものをあまり見ない。

そういうものがあってもいいな、
とぼくは思う。

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