血を出す師匠
なにかを面白がるときって、
自分の場合、人を好きになることから
始まる気がする。
例えば落語。
落語はなんとなく興味はあっても、
どういうふうにとっつけばいいのか
よくわからなかった。
いまではyoutubeがあるので、
昔のテレビ番組の録画やラジオの
音源がたくさん残っている。
そういうのを伝っていくと、
立川談志っていうなんか変な人がいる。
対談やバラエティーに出ているのを見て
なんだか惹き付けられる。
落語が上手とかそういうのじゃなくて、
人柄が魅力的だった。
表現の仕方が難しいけど、
正直な人だなあと。
*
海外の俳優がインタビューで、
かっこよさを保つ秘訣はという質問に
「簡単なことさ、毎日髭を剃ること」
だといった。
これを見た立川談志は、毎日剃ったら、
血が出るだろ、といった。
髭は伸びきって肌の上に出てくる前に、
いわゆる青髭として肌の下に
半分埋まっている状態ってのがある。
肌の上まで伸びきらないうちに、
(一日という髭にとって短いスパンで)
剃ると、上手く剃れない。
半分肌の中にあるもんだから、
剃りあげるときに皮膚までもってっちまう。
それで血が出る。
あるときに、男っていうのは
女の生理のつらさを知らないんだ、
と奥さんに言われたが、
お前、男は髭を剃るとき血がでるんだ、
と言いかえしたが話にならなかった。
というような話をしていた。
*
これって、男なら誰しもが、
共感できると思うが、
誰にも聞いたことも、教わったことも
思えばない。
という妙なところを突かれて驚いた。
なんか、すごみをかんじる。
もう一人好きな人ができたのだが、
弟子の立川談春。
著書「赤メダカ」が面白い。
中身については省くけど、
落語界にあるような師弟制度って
いま、あんまり聞かない。
憧れの偉人と隣り合わせで暮らす、
という事がまたとなくうれしくもあり
恐怖でもある。
いいつけ仕事にせよ落語修行にせよ、
「だれのためにやってんだ」
と言われたときの解答がひとつしかない。
自分のためなわけない。
憧れの偉人である師匠のため。
と思えば、何事もただでは許されない気がする。
そんなぴりぴりしたような気持が
もしかしたら、
今ぼくに必要なのかもしれないと
思って、ちょっとした恐怖感をおぼえる。
2017/05/25