未開拓時代
生まれてからずっと
東京に住んでいるけれど、すべての地名を
知っているというわけではない。
むしろ知らないことばかり。
つい最近まで、ぼくは
広尾という場所を知らなかった。
「2日も同じ服を着るなんておしゃれの
ニューウェーブね」と言われたのを、
ずっと褒め言葉だと勘違いしていた
ぼくが広尾を知らなかったのも
もっともであるが、
はじめて訪れた時は驚いた。
六本木から歩いて
迷子になっているうち広尾に
辿り着いた。
そこには、名前からして素敵な
「有栖川宮記念公園」という公園があり、
向かいにはオープンテラスのカフェ。
そこで赤い色の新聞紙を読んでいる男性。
ちいさい犬を抱えている女性。
みんな外人だ。かっこいい。いい匂いがする。
聞き慣れない言葉が楽しげに笑っている。
店先の植木ではビジンのお姉さんが
ポーズをとっている。撮影会だ。
さながら新大陸発見。
こんなすてきな場所があったとは。
いままでの自分の行動範囲の狭さを
嘆いたものでした。
*
もっといえば、
自分の住んでいる地区にだって、
まだ足の踏み入れた場所のない
ところがあるはずなんだ。
「行ったことのない近所」って、
どこにあるんだろう。
どこが入り口なんだろう。
「ここから先って行ったことない」
という奇妙な境界線の前に立ってみたい。
と思って、わざと迷ったりすることもある。
行ったことない場所、ってそれだけで
魅力的に見えます。
「知らないところ」は尽きない。
未開拓時代だ。と思ってどきどきする。
2012/09/14