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のぼせてみる

新年だからなまけていたが、ふと
荒川洋治でも読んでみようと思った。
荒川洋治の詩集ではなくて、エッセイ集。
 
「ふと」というのには、
いちおう理由がある。
 
荒川洋治のエッセイは、
本の中継地点のような内容が多い。
 
本の紹介、というか、本を読んで
思ったことを中心に書かれている。
だから、読むと、読みたい本が見つかる。
湯舟につかりながら、じっくり読んでみよう。
 

 
荒川洋治『夜のある町で』(みすず書房)
内の「夢のふくらみ」では、
宇野千代の本のことが書かれている。
 
「不思議な事があるものだ」という小説で
1993年の正月号に発表されたもの。
 
小説の内容をかなり大雑把にいうと、
「大きな気持ちの方へ意識を向けること」
という意味合いを持つもので、
これからの一年を迎える正月に、
ぴったりだと思う。
 
電車の中でイヤホンをつけながら、
目を閉じ、口をふわふわさせながら
リズムにのっているような、
自転車に乗りながら、車の多い通りなら
ちょっとくらい声をだして歌っちゃう
みたいな、そういう、
のぼせた気持ちのときって、今なら
「自分はなんでもできる」と思えて
心がはればれしてくる。
 
大きく息をすって、胸を膨らませる。
自分が特別な存在だと思い込む。
 
宇野千代はそういう気持ちを意識的に
自分から選んでみることを勧めている。
 

 
「おとなになってからは世間の目や常識やで、
のぼせることがずいぶんむずかしくなる。
(中略)
遠くのほうから「のぼせるなよ」と
いっている人の生命のほうが、物足りなくて、
さびしげにも見えてくるものなのである。」
 
と言われると、そういう気もしてくる。
日々前向きな姿勢を、自分で選んで、
意識する事が、衣食住と同じく
必要だという。
 
そうか、と思って本を閉じる。
心持ちふくらんだように、ほくほく
湯舟から上がると、
つーん、と血の気がひく。
このくらくらがたまらん。
 

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