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魂のコルク栓を抜いたみたら

レイ・ブラッドベリの短編集
『二人がここにいる不思議』の中の
「十月の西」を久しぶりに読んでみました。

これは『塵よりよみがえり』という
あるオバケ一族(あるいは奇特な力を
そなえた妖怪一族)の中から一篇を
引き抜いたもの。

超ザックリいうと、
オバケ一族が集会するという話で、

物語のなかでも、
この不思議な一族が
一同に会する理由ともいうべき
少女セシイについての描写が
際立って輝いています。

セシイは、魂を自由自在に
「うつしかえる」ことができる能力
をもっているんです。

(以下引用)
頼んでごらん。
あなたの魂を痛む虫歯みたいに
引っこ抜き、雲のなかでひんやりと
鎮めてほしいと。
すると、あなたは引っぱり上げられ、
空へのぼり、雲の原をただよっている。

雨となって草を伸ばし、
花の種や目を育てるそういう雲だ。

その同じ魂をひっつかみ、樹木の胴に
封じ込めてほしいと頼んでごらん。
するとあなたは明くる朝、
枝もたわわにリンゴをぶらさげ、
緑したたる頭のなかに鳥の歌声を
ひびかせている。

蛙になりたいといえば、
あなたは昼はぷかぷかと水に浮かび、
夜は不思議な歌をがなりたてている。

雨になりたいといえば…(中略)
月になりたいといえば…(中略)

セシイ。彼女はあなたの魂を取りだし
ぎゅう詰めの知恵を抜き取り、
どんなものにも移し替えてしまう。
植物、動物、鉱物なんでもござれだ。

というように、
魂だけでさまざまな「モノ」に
飛び移ることができる。
想像するだけでも、ときめきます。

「自分は人間である」という狭苦しい
瓶のなかから、コルクをぽんと抜くように
解放して、
他の生き物たちの感覚を体験してみる。

どんなふうなんだろう?

その答えに、導いてくれる本が
あります。

日本の名随筆別巻89
『生命』から
「天体の動きと生物」柳澤桂子
というエッセイ。

生き物たちは、
太陽と地球の回転が生み出す
日夜、季節のリズムや、
月の影響を受ける潮の満ち引き
などの天体のリズムに合わせて
命をめぐらせていること。

帰巣本能がなにをきっかけに
働いているか、
体内時計がどのようにセッティング
されているかが書かれています。

詳しくは、明日にしますが。

「生物がいかに宇宙のリズムに
合わせて、そのふところの中で
生きているのか、ということがうかがえる」

それは、「ぼく」からみると
分からないけれど、
動物や植物、ほかの生き物たちに
なってみたら、
人には見えていなかったなにかが
感じられるんじゃないかと思ったんです。

でも、
そもそも、人間のからだにも、
宇宙のリズムっていうのはあるんですよね。

見えていないのは「意識」としてのぼく。
意識は「人工」だけど、
内臓や神経系の働きって「自然」だよなと
思って。

もしセシイに頼めるなら、
自分の内臓からみた世界はどんなふうなのか、
とびこんでみたいと思う。

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