野生の電子レンジ
電子レンジでミルクを温めるとき、
「ミルク」という自動ボタンをピッと
押します。
自動だから、温まると勝手にとまるので、
カップ一杯のミルクが何秒で温まるのかを
ぼくはしりません。
それなのに、冬から春にかけて、
お湯でもお茶でも「ミルク」ボタンを
何度も使っていたせいか、
だいたい、チンの鳴るタイミングが
分かるようになったんですよね。
もうすぐかな、と思って腰を上げると
「ピー」っとなる。
やはりな、と内心したり顔で、
われながらにすごい体内時計だ、と思う。
そういうことって、ぼくだけでは
ないと思いますけれど。
*
こういう感覚って、頭で意識して
時間を数えているわけではないのに、
どうして「なんとなく」でわかるんだろう?
と不思議に思うんですよね。
*
そんな感覚は、中学生のころにも
ありました。
当時は割とまじめで
テスト前はちゃんと勉強をするタイプ
だったのですが、
根は不真面目だから、
そろそろテストだぞ、という緊張感が
なければ、ゲームしたり、マンガを読んだり
落書きしたり、遊び放題だった気がする。
基本的に勉強なんてしたくない。
でも、試験の2週間前とかになってくると、
うっと、お腹に来はじめるんです。
いつもは夜ふかしできないくらいの
早寝なんですが、
「このままだとヤバい」という感触が
そのうちに、首の後ろ辺りから
背中にかけてにも、ぴりっと走る。
そういう状態は快くないのですが、
試験勉強のために起きるには
ちょうどよい目覚まし効果になります。
*
テスト範囲が何ページで、
理解できているのは、そのうちの
どのページで、
一日にどのくらいのペースでやれば
間に合うのか…
という、具体的な試算を
とっているわけではないのに
ヤバいときには、「うっ」となり、
大丈夫なときは、ま、寝ても大丈夫か
と思える。
計っていないのに、
電子レンジのチンのタイミングが
なぜかわかる、という感覚と
似ていて、
自分ではない全知全能のなにかが
ぼくの後ろで暗躍しているのではないか、
と疑いたくなるほどです。
*
それで、もしや、と思うことが
ありまして。
渡り鳥とか、鮭なんかが、
ある季節になるといっせいに
大移動をはじめますよね。
体の中に正確な時計とか、コンパスとか、
もしかして
GPSでも搭載されているんじゃないの
っていうくらい、
動物って、人間にはない
ものすごい特殊能力を持っていたり
しますけど。
…じつは、人間にも
そういう野生の勘みたいな能力って
あるんじゃない?
と思うんですよね。
気が付いていないだけで。
2021/06/12