語感を楽しむ
本を読むのが好きなひとは、
悩み事が多い、と言っても
過言ではないと思う。
読んで気持ちが解消される、
という浄化作用みたいなものが、
読書にはあるから。
ぼくが本を読むことに対して
積極的になったのも
そのせいなんだけど、
読んでいると、そのうち
別のところがおもしろいな
と思うようになってきた。
*
分かりやすい例でいうと、
山村暮鳥という明治生まれの詩人が
書いたこの詩。(抜粋)
窃盗金魚
強盗ラッパ
賭博ねこ
殺人ちゅりっぷ
誘拐かすてえら
…意味じゃなくて、
言葉のイメージの感触を
組み合わせて作ったもので、
語感や、字面としてのイメージ、
目で読むのにきもちよさとか、
おもしろさがある。
*
原田郁子の歌で
いしいしんじが作詞の「海からの風」
という曲があって、
この歌詞がまたいいんです。
外国の旗
新聞紙
小魚のむれ
空き缶
派手なシーツ
三輪車
バーの看板
おばあさん
これも、意味のある文章ではなくて、
単語の羅列なんだけど、
おもちゃや人形であそんでいるような
くすぐられるような
愉しさがある。
*
語感が気持ちいいといえば、
「まぼろしの白馬」(石井桃子訳)
食べ物の描き方が
おいしそう。
熱いオニオン・スープ、
肉のシチューに焼きりんご、
自家製の皮のかたいパン、
あたためられたぶどう酒
マリーゴールド色のバターに
焼きたてのクリ。
ピンクのさとうごろものかかった
かわいらしいケーキ、
あわだっているしぼりたての牛乳、
銀のおさらいっぱいのサクランボの
さとうづけ。。
これを読んでいる時、
なんとなく口の中に本当に
味を感じていた記憶が
いまでも蘇る。
*
このホームページを作った当時、
ぼくは、語感であそぶ575を
作っていたんだけど、
抜粋してみよう。
冷淡なピアノをはじく夏の朝
はなうたでバターはとける洋梨酒
封筒のなかでかすかな虫の音
初蝶やバターの匂い光りだす
よろこべばオムレツふたつ熱すぎて
ほっぺたも牛乳瓶も雪景色
意味なんて、ひとまず
どうでもいいじゃないか、
と思ってから初めてできる遊び。
だれにも共有できない一人遊び。
だけど、分かってくれる人がいたら
とてもうれしい。
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2020/08/15