記憶の作業台
トップイメージをそろそろ更新しようと
思ってずっと前からぼんやりと
頭の中で練っているのだけど、
なかなか着地しない。
すがる気持ちで
「文章を理解するとは」(甲田直美著)
をぱらぱらめくっていると、
もともと考えていたこととは
違うことを面白がってしまった。
脳には長期記憶と短期記憶がある。
これはなんとなく聞いたことがある。
一般的に言う「記憶」というと、
思い出とか経験って連想するけど、
これは長期記憶。
長年染み付いた習慣も、これ。
一方、短期記憶というのは、
初めてかける電話番号とか、
読んだ本の細かな内容とか、
試験勉強の一夜漬けとか、
その場で必要な一時的な記憶。
しばらくすると忘れてしまう。
*
この本では、「短期記憶」は
文章を読む時にも
使われているのだという。
ついさっき出てきた事柄や場面を
心に留めながら読み進めるものとして。
(…「この本では」と言った時、
ああ、あの本ね、と思えるのは
短期記憶を使っていると思われる。)
面白いのは、短期記憶の別名。
「作動記憶」というのだそう。
一種の記憶の作業台だという。
頭の中に作業台があって、そこに
記憶(言葉)が並べられるところを
想像する。
ああ、これは575の句のようだな。
たっぷりと濡れ苔の花たちあがる
(土肥あき子)
恋文をみせあふ少女百日紅(さるすべり)
(川上弘美)
カナリアの黄が溶けている春の家
(坪内稔典)
8の字に玩具の汽車が花散らす
(市川無畏)
机の上に素材をならべて、
香水の調合のようにかけ合わせる。
短期記憶による感覚の操作こそが、
ぼくの好きな575なんですね。
2013/04/07