言葉をぱくっとプランクトン
ビルの窓に一文字ずつ、
大きな文字がはり出してある。
「マハ音楽教室」だ。
聞きなれない名前だな。
インドかなにかの民族音楽かな、
と思っていると、すぐ隣の
開いていた窓が閉まった。
あらわれたのは
「ヤマハ音楽教室」
あ、ヤマハか!…
というような経験が何回かある。
よく知っていて、見聞き覚えのある
言葉でも、最初の一文字目を
見失うと、急に意味が分からなくなる。
この感覚が気になっていた。
*
話は変わって、ふと、
妖怪とプランクトンの類似について
荒俣宏が話していたのを思い出した。
超ざっくりいうと、
透明でみえないが、いる。
という類似だったか。
言葉にも似たところがある、と
ぼくは思った。
単語は、意味がある。
「はなび(花火)」
というと、どことなく、
あの、夏の夜空のきれいなやつ。
と思い浮かべる。
外界に見える視覚としては
なにもないけれど、
脳内イメージには、そのおぼろげながらも
形が浮かび上がる。
要するに、脳内においては不透明になる。
しかし、
さっき話した体験のように、
最初の一文字だけ取ると、
とたんに、イメージはあやふやで
透明になる。
「はなび」なら、「なび」になる。
ナビゲーションの「ナビ」ともとれるが、
ひらがなだと覚えのない感じがする。
*
「んぎょう」
「んじゃ」
「んぱん」
「もだち」
「レビ」
「ラタン」
こんな変な言葉、
口にだしてみたこともないよ!
と思うかもしれない。
なんの意味にも形にもならない、
こういうのが、
いわば言葉のプランクトン。
*
もとどおり、最初の一文字をつけると
「にんぎょう」
「にんじゃ」
「あんぱん」
「ともだち」
「テレビ」
「グラタン」
と、ぱっとイメージが現れる。
ふだん使う言葉は、ほとんど無意識で、
単語を一かたまりのメロディのように
定着して覚えている。
なので、一文字抜いた、
プランクトン状態になったものは
知らない、という気がする。
でもその、知らない、と思っていたものが、
実はよく口にしている音だった。
ということが、なんだかおもしろい。
*
パックマンみたいな、言葉のプランクトンが
ぱくぱく、なにかを食べようとしている。
食べると進化する、プランクトン。
「なび、なび、なび、なび」
「は」をぱくっと飲み込むと、
どどーんぱぱん「はなび」に進化しました!
みたいなあやふやなアイデアを思った。
2017/11/17