自分の体の中の「自然」
実家には猫がいて、
昔はよく寝ている猫のお腹に
顔をうずめていたりした。
耳をあてると
小さな鼓動が聞こえる。
それで「おまえも生きているんですなあ」
と思う。
*
いま思うとなかなか
不思議な話なんですが、
小学生のころ、脈のリズムが
不整脈だったことがあって。
(今は治ってますが)
寝る前に枕に耳をおしあてて、
響いて聞こえてくる自分の心音に
耳をすましてみる、
ということをよくしていました。
ど、ど、ど、ど…、…、…
ドクン、ど、ど、ど、ど…、…、…
という感じで、時々心音が息を止め、
次に、その分を吐きだすように
比較的大きな鼓動が鳴る。
自分のことながら、
まるで、猫のおなかに耳を
当てているときと同じような感じで、
「他人事のように」聞いていた気がする。
だって、心臓を動かしているのは、
ぼくの意識とは無関係だから。
すごく冷静でというか、
好奇心というつもりで、
その心音の息が止まる瞬間を
お、お、っと聞いていた。
「いま、心臓とまってる!」
みたいな。
*
よく考えてみれば、
自分の体で意識して働いているのは、
10パーセントもないんじゃないか
という気さえしてくる。
髪の毛も、爪も、血液も、食べ物の分解も
細胞の入れ替わりだって…。
天気を例にとると、
雨が降ったり、風の強い日があったり、
自然の動きも、自分の意志とは無関係に
そこにある。
そういう「自然」と自分の体って
同じようなものなんだろうな。
自分は、自分の体という「自然」に
寄生して生きている。というか。
寝ている間でも、
なにも考えていないときでも、
落ち込んでいようが、
元気でいようが、自然も、体も
いつもぐんぐん働き続けている。
自分はその結果を、
まるで天気の雨や風の日だというように
享受するだけって感じ。
なんか、お腹減ったな…みたいに。
自分の体の中の自然が、今この瞬間も
よく働いているなあと想像すると
なぜか、こちらも元気が湧いてくる。
2021/05/01