空気の水底で
とうとつだけど、ロケットの話をしよう。
たとえば映画でロケットが帰還する場面。
それは大体、緊迫感のあるシーンになる。
機体はガタガタうなり、アラームが響く。
それから飛行士たちの額には汗が光る。
「大気圏突入」である。
今まで平然と高速で移動してた宇宙船が、
なぜ地球に落ちていくだけのことに
それほど苦労するのか。
「それは地球のまわりに、
空気がたまっているから」
だという。
…とは分かっていても、どうも
実感にそぐわない。
だって、普段生活していて、
空気を意識することなんて
まずない。
意識しないものが、大きな力を
もっているとは、なかなか信じ難い。
(でも実際のところ、
空中に手のひらを差し出しせば
その上に1トンもの空気を持っている
ことになるという…信じられないけど。)
*
話はがらりと変わる。
深夜あまりにもけだるかったから
少し体でも動かそうと思って、
近所の公園まで歩いて行った。
涼しくて、心地よく池のまわりを
めぐっていくと、
池を眺望できるポイントに出たので
そこのベンチに座った。
砂利石がたくさん転がっている。
「久しぶりに、」
と思って水切りをやってみた。
水の上を石をぽんぽん跳ねさせるやつ。
…そうそう、それをやっているときに
思い出したの、「大気圏突入」のこと。
早いスピードで水に飛び込んで行くと
激しいしぶきがあがる。
角度によっては石を弾き返すくらい
水が硬いものに変わる。
プールで腹から飛び込んでしまうと、
なかなか痛くもあるし。
そう、宇宙船も激しく(水のような)
空気にばしゃーんと飛び込んでいくような
ものなんだ。
原理は同じなんじゃないかと思った。
*
水と、空気は似たようなもの。
と思ってみると、想像がふくらむ。
人が「空気なんか気にしない」ように、
魚たちも「水?なにそれ?」と
思っているかもしれない、とか。
それから変なたとえだけど、
魚が、水揚げされるのって、
人間が裸で宇宙空間に連れて来られるのと
似ているのかもしれない。
そして、街を何気なく歩いているときは、
魚が水の流れの中でそよいでいるように
ぼくたちも深い空気の底に沈んでいて、
魚さながら、
いわば空気の中を遊泳し、旋回しているのだ
と思えてくる。
2015/07/09