積極的な迷子
大人の遊び、というとどんなことを
思い浮かべるんだろう?
大人のみなさんは「遊びに行く」
というと、どこへいくんだろう。
旅行か、買い物か、遊園地か、
パーティ的な何か…わからない。
お前はなにをして遊んでいるのだ、
と聞かれることもあって、
なかなか人には言えないが、
この作文でなら、書けそうなので、
書いてみよう。
*
ときどきやってみることなんだけど、
「いつもの道」とは逆の方に行くこと。
逆の方に行く、とは言っても、
頭の中では俯瞰図みたいなものを
イメージしていて、
大体このあたりに来たんだよなあ、と
思いながら、ちゃんと目的地に
たどり着くようには調整する。
つまり、今まで通ったことがない
道を探す。自分から迷子に
なってみる。これが、ぼくの遊び。
*
自分の悪い癖は、
頻繁に通るところだと、ついつい、
「ここをどこだか知っている」
という気分になってしまう。
でも、いつも右に曲がるT字を
左に行ってみると、
がーん、と思う事がある。
なんだここは。
コンクリートが終わって、
そこからは土の道。
左右は雑木林で、深い緑が
かすかに光っている。
たちどまると森閑としていて、
頭がぽーっとする。
こんな道があったんだ!
知らなかった!とうれしくなる。
別に自然がたくさんあるからいい
というわけではなくて、
すぐ隣の通りなのに、
この景色初めてみた!という感動がいい。
*
工場地帯の脇に、
並木のある大きな通りがあって
住宅がずらーとならぶ。
夕方で、全く車も人もいないせいで、
無駄に広く思える通りに、木々が風で
そーっと揺れる。
これで頭がぽーっとする。
1軒だけ西洋の植物が
盛大に咲いた家があって、そこから、
知らないおばあさんがふっと
でてきた。
「用意ができましたよ」
と言われたから、思わず歩をとめて、
気がついたら、お茶にお呼ばれして、
人生相談のひとつでも聞いてもらう。
奇妙なくらいすべてに肯定的。
「よく初対面の人に、
そんなこと言えますね。」
と聞くと、
「それはあたしがもう死んでるから」
とひっひっひと魔女みたいに笑う。
…そんな怖い妄想をついしてしまう。
*
知らない道と出会う時、
風景をあじわう、という感じがする。
時間がゆっくりになって、
あめだまを舌で転がすように、
とろとろと味わう。
これって、なにに似てるかというと、
読書だな。
本を読んでいるときも、
時間が止まったような、
ほっとしたような気分になる。
じっくり文字を眺めて、
その景色をあじわう。
読書と、散歩はだから、似ているな。
読書好きのみなさんには、
迷子もおすすめしたい。
2019/06/05