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環境によって消えるもの

朝の蝶と、午後の蝶では、
見えているものが違うのだという。
 
生物学者の日高敏隆「犬のことば」
という本から引用。
 
「アゲハチョウのオスは、空腹のときは
メスと同じく赤い花に魅かれる。
というより、赤い色にきわめて敏感に
なり、すぐそこへ飛んでゆくのである。
 
けれど、朝の時間のように、
性衝動が高まっている時には、
彼らはもっぱらメスのしるしである
「黒と黄の縞」を探し求める。」
 
ということで、
朝の時間には「赤い色」は消えて
しまったように見えているし、
午後になって空腹になると、
「黒と黄の縞」は背景に退くのだそう。
 
環境によって、見えている世界が
変わってくる。
いわば主観的な捉え方が、
生物の中では正しい世界であるという。
 

 
人間でも、見ているものが違う。
同じものを見ているはずでも、
おそらく感じ方も違う。
 
最近は、どんどん冷えてきて、
外に出るのもイヤになるが、
東北から上京してきた大学生が
電車のなかで「こんなの寒いうちに
入らない」という。
「だって東京は、さむーいって言うけど、
ほんとに寒いと無言だよね。」
 
他にも、
道を歩いていると、
前を歩く作業着のおじさんが
ふたりで上空を指さして、
「あ、あれ!」と言って珍しそうに
立ち止まっているので、
なにか鳥でもいたのかな、と思って
よく話を聞いていると、
「まだあんな電線使ってるんだ、」
という仕事の話だった。
 
事実は主観的なものの中で
捉えられて行く。
視界に入っているはずなのに、
見えていないことはたくさんある。
 
「その人だから見えている」というのを
逆手にとって、
「その人だから見えてない」ものを
見つけるのもまた面白そう。
 
推理小説のトリックなんかで
使いたくなるネタだ。

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