環境によって消えるもの
朝の蝶と、午後の蝶では、
見えているものが違うのだという。
生物学者の日高敏隆「犬のことば」
という本から引用。
「アゲハチョウのオスは、空腹のときは
メスと同じく赤い花に魅かれる。
というより、赤い色にきわめて敏感に
なり、すぐそこへ飛んでゆくのである。
けれど、朝の時間のように、
性衝動が高まっている時には、
彼らはもっぱらメスのしるしである
「黒と黄の縞」を探し求める。」
ということで、
朝の時間には「赤い色」は消えて
しまったように見えているし、
午後になって空腹になると、
「黒と黄の縞」は背景に退くのだそう。
環境によって、見えている世界が
変わってくる。
いわば主観的な捉え方が、
生物の中では正しい世界であるという。
*
人間でも、見ているものが違う。
同じものを見ているはずでも、
おそらく感じ方も違う。
最近は、どんどん冷えてきて、
外に出るのもイヤになるが、
東北から上京してきた大学生が
電車のなかで「こんなの寒いうちに
入らない」という。
「だって東京は、さむーいって言うけど、
ほんとに寒いと無言だよね。」
他にも、
道を歩いていると、
前を歩く作業着のおじさんが
ふたりで上空を指さして、
「あ、あれ!」と言って珍しそうに
立ち止まっているので、
なにか鳥でもいたのかな、と思って
よく話を聞いていると、
「まだあんな電線使ってるんだ、」
という仕事の話だった。
事実は主観的なものの中で
捉えられて行く。
視界に入っているはずなのに、
見えていないことはたくさんある。
「その人だから見えている」というのを
逆手にとって、
「その人だから見えてない」ものを
見つけるのもまた面白そう。
推理小説のトリックなんかで
使いたくなるネタだ。
2015/01/15