湯舟で山越え
夜の丘陵は怖い。
最寄りのバス停を降りて、
家に辿り着くまでに
小さいひと山を越える。
その途中の200mくらいは
完全な森の中。
街灯もないので、
ほとんど何もみえない。
物音もかすか。
暗さに慣れると
月明りで目が冴えてくる。
音にも敏感になる。
そのために神経の感度が高ぶり、
好奇心に似た興奮と
恐怖の両方が襲ってくる。
ほとんどの場合は、
恐怖がやや勝ってしまう。
*
灯りのない夜の森なんて
神聖な感じがして美しいのだけど、
怖さが気になって十分に味わえない。
そこで、どんな防具を備えていれば
暗い森の中でも怖がらなくて
済むだろう、と考えてみた。
結果から言えば、それは湯舟だと思った。
湯舟に車を付けて移動式にする。
前面はガラス張りにして、
シュノーケルで潜りながら
運転をする。
これなら怖さも、さほど感じない。
闇の中に湯気がきらきら光る。
顔を出して深呼吸すると、
土のいい匂いの冷えた空気が
おいしい。
耳を澄ませば、
湯のちゃぽん、という音が
こだまする。
2013/01/22