残したくなるもの
100年前のフランスって、汚い。
たぶん全部がそうじゃないと思うけど、
ウジェーヌ•アジェという写真家の
パリの記録写真を眺めていると
廃墟みたいな建物がいっぱい出てくる。
とてもくたびれてる。
でも調度品や、窓からのぞく
テキスタイル模様などの装飾は
ものすごく細やかで美しい。
機械ではなくて職人の手が作ったのだ、
という心地よさがあります。
かごの歩き売りのおじさんや、
郵便配達夫、ヌガー売り、
マット打ち直し工、
公園での芝居を見入る子どもたち
などのポートレートもあって、
服装も、なんとなくよれよれだけど、
かわいくておしゃれ。
「みんなが衣装を着ている」というと
変だけど、そういう感じ。
建物の壁が灰色にくすんでるとか、
教会の石段がくずれてるとか、
空き地にゴミが散乱しているとか、
屋根がつぎはぎだらけ、とか
そういうのも含めて、
当時日常的に使われているものが、
現在の自分からみると
夢の世界のように見えてしまう。
*
ぼくの身の周りには
面白い物がなさすぎて、自分って
なんて貧困なんだろうと思う。
本屋に行かなきゃ面白いものがない、
とか、美術館にいかないと
美しいものがみれないとか、
自然とそう思ってしまう。
100年以上前に写真を撮ったアジェは、
自分が暮らしている当時のフランスを
やっぱり「残すべきもの」として
見ていたんだろうなと思う。
今のぼくのまわりには、反対に
早く壊した方がいいんじゃないか
というものが多い気がします。
あんまりこういう無責任なことを
言うと嫌われそうだけど、
集合住宅地とか、見るに耐えない
ビルとか家の近所にいっぱいある。
家もビルも壊して、
狭山丘陵の自然や公園を拡大して
あとは昔のようにたんぼが戻ったら、
ぼくも後世に残すつもりで、
スケッチしてみたくなるだろうな、
と思っています。思っているだけ。
2014/01/28