止まっている力
世間がざわついていて、
それに対して、ぼくの方は、
かなり無関心でいられるので、
逆に、大丈夫かなといらない心配をしてしまう。
そこで、最近ことにつけ思い出すのが、
パトリック・ジュースキントという
ドイツの作家が書いた「香水」という小説。
これは映画にもなって有名かもだけど、
鼻に異常な才能を持ったグルヌイユという
青年の物語。
池内紀の翻訳がとても心地よくて、
「匂い」の描写を読むだけでもうっとりする。
それがたとえ「くさい」臭いの様子でも。
*
匂いといえば、マスクをつけて散歩していると、
前日に浸していた消毒液の匂いばかりがする。
だけど、人のいない雑木林に出て
マスクを外すと、どっと空気が濃厚に薫る。
あれはなんの匂いだろう。
まったく分からないけど、なつかしいなー
という気分になる。しばし匂いに酔う。
*
ところで、小説の話に戻ると、
グルヌイユ青年は、自分自身に匂いがない、
という事に気が付き、ショックのあまり、
草も生えないような高山の岩の隙間に
身を寄せる。
そこには匂いがない。
自分にも匂いがないんだから
彼にしたら、完全に無の世界。
そこが、世間と隔離された
落ち着く場所。
読んだのはずいぶん前なので、
うろ覚えだけど、そのシーンを思って、
今の自分と重ねて、
ひとりでホッとしたくなる。
*
そういうモードになったときに、
キャッチできるものが面白い。
村山斉という宇宙の研究者の
ラジオを聞いていたんだけど、
ダークマター、暗黒物質について
しゃべっていた。
なにかというと、よくわからない。
これ、中2病的な妄想ではなく、
真面目に科学者が研究しているものらしい。
それは物質だから重さはあるけど、
目に見えない。
どんなに観察しても、
「あるはず」と思しき足跡があるのに、
自分たちとはほぼ反応し合わないから
異次元から来たのでは、という説も。
面白いと思ったのは、
見ると、ぽかっと止まって浮かぶ暗黒物質。
エネルギー0のように見えるけど、
だけど重さがあるようにも見える。
E=mc2 の式でいうところの、
重さがあれば、エネルギーを持っている、
ということになるけど、
どうもそう見えない。
目に見えず、止まっているのに、
動いているようなエネルギーが
重さとして現れている。
もしかしたら、
ぼくらには感知できない異次元方向に
向かって、ものすごいスピードで
走っているのかもしれない。
その異次元方向が見えないから、
動いていないように見えるだけ…
という。
*
全然話が違うかもだけど、
これを聞いてぱっと思ったのが、
つけもの石。
石は止まっている。
でも漬物を一定の圧力でおし続ける。
石じゃなくて、ただの水の中に入れるだけでも静水圧(水の圧力)を生み出して
食感を残したまま殺菌処理までするらしい。
壁に時計を両面テープで留めても、
耐可重量を超えたものだと、
夜のうちに、がたーんと壁から外れて落ちる。
止まって見えていても、
つねにエネルギーが発生している。
そういう目で周りを見ると、
「止まっている」ということに
それぞれ疑いをかけたくなる。
2020/04/27