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止まっている力

世間がざわついていて、
それに対して、ぼくの方は、
かなり無関心でいられるので、
逆に、大丈夫かなといらない心配をしてしまう。

そこで、最近ことにつけ思い出すのが、
パトリック・ジュースキントという
ドイツの作家が書いた「香水」という小説。

これは映画にもなって有名かもだけど、
鼻に異常な才能を持ったグルヌイユという
青年の物語。

池内紀の翻訳がとても心地よくて、
「匂い」の描写を読むだけでもうっとりする。
それがたとえ「くさい」臭いの様子でも。

匂いといえば、マスクをつけて散歩していると、
前日に浸していた消毒液の匂いばかりがする。
だけど、人のいない雑木林に出て
マスクを外すと、どっと空気が濃厚に薫る。

あれはなんの匂いだろう。
まったく分からないけど、なつかしいなー
という気分になる。しばし匂いに酔う。

ところで、小説の話に戻ると、
グルヌイユ青年は、自分自身に匂いがない、
という事に気が付き、ショックのあまり、
草も生えないような高山の岩の隙間に
身を寄せる。
そこには匂いがない。
自分にも匂いがないんだから
彼にしたら、完全に無の世界。

そこが、世間と隔離された
落ち着く場所。

読んだのはずいぶん前なので、
うろ覚えだけど、そのシーンを思って、
今の自分と重ねて、
ひとりでホッとしたくなる。

そういうモードになったときに、
キャッチできるものが面白い。

村山斉という宇宙の研究者の
ラジオを聞いていたんだけど、
ダークマター、暗黒物質について
しゃべっていた。

なにかというと、よくわからない。
これ、中2病的な妄想ではなく、
真面目に科学者が研究しているものらしい。

それは物質だから重さはあるけど、
目に見えない。
どんなに観察しても、
「あるはず」と思しき足跡があるのに、
自分たちとはほぼ反応し合わないから
異次元から来たのでは、という説も。

面白いと思ったのは、
見ると、ぽかっと止まって浮かぶ暗黒物質。
エネルギー0のように見えるけど、
だけど重さがあるようにも見える。

E=mc2 の式でいうところの、
重さがあれば、エネルギーを持っている、
ということになるけど、
どうもそう見えない。

目に見えず、止まっているのに、
動いているようなエネルギーが
重さとして現れている。

もしかしたら、
ぼくらには感知できない異次元方向に
向かって、ものすごいスピードで
走っているのかもしれない。
その異次元方向が見えないから、
動いていないように見えるだけ…

という。

全然話が違うかもだけど、
これを聞いてぱっと思ったのが、
つけもの石。

石は止まっている。
でも漬物を一定の圧力でおし続ける。

石じゃなくて、ただの水の中に入れるだけでも静水圧(水の圧力)を生み出して
食感を残したまま殺菌処理までするらしい。

壁に時計を両面テープで留めても、
耐可重量を超えたものだと、
夜のうちに、がたーんと壁から外れて落ちる。

止まって見えていても、
つねにエネルギーが発生している。

そういう目で周りを見ると、
「止まっている」ということに
それぞれ疑いをかけたくなる。

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