椅子の権利
机に向かおう、と思う。
机に向かったからには、
ちゃんとしようと思って背を正す。
普段から姿勢が悪い(すぐ横になる)
ぼくが椅子に腰を据えるのは、
なかなかの決断が必要なのです。
腰かけると椅子をちょっとひいて、
凛とした気分になる。
*
すると、飼い猫が
ガッチャンガッチャンと
ドアのノブを回して
部屋のなかに入ってきた。
しかし、それには気を取られない。
なぜならもう集中モードに
入っているんだから。
作業を始めると、猫は足の周りを
くるくる回りながら、にゃあという。
お前の甘い声になんてまどわされんぞ、
と思ってイヤホンを当てることにした。
しばらくすると、
猫はぴたと動きを止める。
なぜだと思う?
飛ぶ準備段階に入ったのだ。
狙いをすませ、ちょうど一番ダメな
タイミングで机に飛び乗る。
作業は停止せざるを得ない。
狭い机の上をくるくる回転しながら
ごろごろごろ、と喉をならしている。
そしてイヤホンのコードと絶妙に
絡まり合い始める。
回るのを止せばいいのに、
ぼくの手元を中心にして、
くるくると回り続け、
やがて身動きできないくらい
絡まってしまう。
*
そのうち、目がとろーんとして、
へたんとすわり込む。
こともあろうか、そこは作業現場の
中心地であり、ぼくの両腕の上である。
水木しげるのマンガなら、
「フハッ」と言ってるところだと思う。
自由を失った両腕をそのまま猫の
思うようにさせているけれど、
このままでは埒があかないので、
ずりずりと腕を引き抜いて、
席を立ってトイレに行くことに。
帰ってくると、猫はぼくの座るべき
椅子の上にライオンみたいな高貴な
風格で寝そべっている。
ああ、そうか、そこは
お前の椅子だったね。と
ぼくは寝そべって作業を続ける。
2013/11/30