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曖昧な1

どんなに口で説明しても、
数字にはかなわない。
と、言われるくらい、
ぼくたちが数字によせる信頼はあつい。
 
けれど、友人とやよい軒で
ごはんを食べているとき、ふと思った。
もしかしたら、数字は言うほど
信頼性のあるものとは限らないのでは。
 

 
やよい軒といえば、
「ごはんおかわり自由」
というのが、売りの定食屋さん。
 
客としては、なんとしてでも、
ごはんをたくさん食べないと
損をした気になる。
 
そして、客であるぼくたちは
おかずを大切に守りながら
ごはんを中心に口に運ぶ…
 
…この話を進める前に、
まずは、数字的な結果をお伝えしよう。
 
おかわりした回数は、
友人3杯
ぼく4杯。
 
さて、食いしん坊なのはどっちか、
というのは言うまでもない。
 
この情報が、世に出でもしたら、
「え、4杯も食うのこいつ」と
ぼくが異常に食いしん坊だと思われるに
違いない。
 
しかし、実際は違う。
詳細を説明させてほしい。
 
まず1杯目は小盛で運ばれてくる。
ふつうのお茶碗の半分くらいの量。
 
それはあっという間に食べ終わり、
おかわりをしに行く。
 
ぼくは、さっきと同じくらいの量を盛る。
友人は、何回もおかわりに行くのが面倒だ、
という理由でお茶碗の3杯分くらいを山盛りに
して取ってくる。
 
3杯目も、ぼくは先ほどと同じ小盛
(残すのは嫌だったので確実な量)を取る。
 
友人はぺろりと山盛りを食べてしまい、
こんどはお茶碗にちょうどいっぱい分
取ってくる。
ここで友人は満足だ。
 
ぼくは、あとちょっとおかずが余ったので、
4杯目として、一口分くらいだけ
ごはんを取ってくる。これでぼくも終了。
 
さて、内訳の詳細はこうなる。
(ぼく)
半+半+半+一口=お茶碗2杯強
(友人)
半+山盛り+並盛=お茶碗4杯半
 
これで、ぼくの食いしん坊疑惑は
晴らせたであろう。
 
「お茶碗1杯」という数字の曖昧さが
よくわかる。さじ加減によって
同じ1杯でもボリュームは定まらない。
 

 
ほかにも本の刷り数も「曖昧な1」を使う。
詩人の荒川洋二のエッセイに書いてあったが
売れた冊数を知りたいとき、
3刷りの本と、10刷りの本を比べたときに
どっちが多い冊数が売れたかは、
分からない、という。
 
1回に10万部も刷る期待度満点の本もあれば、
増刷が3千部づつ、というのもあるようだ。
 
1という数字は案外曖昧に使われることがある。

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