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散歩好きのことば

通常、ことばは「わかるもの」と
思って読むもの。
 
理屈は通ってしかるべきもの。
 
だけど、個人的な
狭い感度で話をすると、
理屈や意味というよりも、
単語からうける印象だけで、
ことばを眺めるのが
好きだったりする。
 

 
これは風景でも似たようなことが
あるように思うのだけど、
 
たとえば、ぼくは
松の木がとても好きで、
散歩中に松があると
急にまわりの風景が懐かしいような、
うれしいような気分でみえてくる。
 
松をみると少し古風な感じというか、
向こうに海があるんじゃないか、とか
想像がふくらんでうれしくなる。
 
あえてことばにするとそんな感じ。
 
ことばをみて、想像が膨らむ人は、
視覚と想像が接続しやすいのだと思う。
散歩でも良い景色を勝手に想像して
みているに違いないと思っている。
 
本読み好きは、散歩好き。だろうと。
 

 
そういう、「意味ではない
ことばの印象」をたよりに
575を作っていた時期があった。
こんなもの。
 
雨ふれば夏大根もすりおろし
 
花まみれ喫茶店から香蒸気
 
湿っ風夜空に灯るアルコール
 
一列の小さな窓にすずめ顔
 
湯気満ちて発動汽船すべる風呂
 
水力で音をならせば夏の色
 
草かげに相似の姉妹ほほえんで
 
日曜の食堂にある魔法瓶
 
封筒のなかでかすかな虫の音
 
笑ったらすぐにくずれる合唱団
 
湯気がたつ朝霧のなかヨーグルト
 
ヌードルは茹で過ぎちゃった麺のこと
 
新緑に酸素だらけの苔の雨
 
庭先でふたり模範の蝶結び
 
啜り泣きおやすみなさいハムサンド
 
殴られてまばらの前歯うれしそう
 
好きな人は少ないと思うが、
ぼくはこういうのいいなと思う。

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