夜な夜な天使は舞い降りる
「誰にも読まれない物語」というフレーズが
とつぜん浮かんできました。
これはどういうことだろう。
たぶん、売れない小説という意味ではない。
なんというか、
大袈裟な言い方をすれば
それぞれの人生のこと、なのでは、
と思い当たりました。
自分の過ごしてきた8割くらいは、
他言しないかぎり、他の人には知られない。
もちろん現場をともにした人がいれば
共有できるけれど、
24時間×7日間、ずっと同じ場所にいる
なんて人はほとんどない。
どこかに「あなた」のいない時間が
必ずある。
「いない時間」を知るためには、
当人に会って、
いまどんなことを考えているか、
どんな気持ちでいるかを話したり、
接したりしてみないと
分かりようもないことです。
だからこそ、ツイッターとか、
ラインみたいなものが、お互いの
知らない時間をつなぎ止める
便利なツールなのだと思います。
とはいえ、「言いたいこと」と
「言いたくないこと」があるとすれば、
基本は「言いたいこと」を中心に
投げ合うのがSNSのような気もします。
隠しておきたい事、
言うべきではないことが
表立つ事は少ない。
いま自分がここでこうしている事は、
他の人は知らないだろう、
ということが集積してくると
なんだか、まいってしまう。
わざわざ言う事でもないし
言いたくない事だけれど、
知っていてくれる人がいれば
助かるのにな、ということがあります。
*
そんなときに
「夜な夜な天使は舞い降りる」という
チェコの作家の本を見つけました。
ずっと「ある人」のそばにくっついて
見守っている守護天使たちが、
なんだか疲れた様子で、教区司祭の
ミサ用のワインを失敬しながら
彼らの主について語り合う、という話。
護られている当人には、ふだん
天使の存在は見えていない。
けれども、熱心になったり、愚痴ったり、
喜び合ったり、うんざりなどしながら、
天使たちはじっと主を見つめている。
なかなかお目見えすることはないけど、
ずっと自分のぜんぶを
眺めてくれている人がいる、
と思うと、なんだか気が楽になります。
2013/01/13