夏の空気、まぼろしの鯨
本を読むときに、
寝っ転がって読むことがある。
仰向けになって
ページをめくると、
ページと、ページの重なりが
窓の光で透けて、
文字がごちゃっと
密集して見えることがある。
そんなとき、
あ、なんかきれいだなと思う。
突拍子もないけど、
昔、長野の山荘に泊まった時に見た
星空が頭をよぎる。
*
星って、きれいだけど、
眺めていてもよくわからない。
だんだん、きれいさよりも
ごちゃごちゃの方が
比重が重くなって見えてくる。
とりとめのないかんじ。
とりとめがないんだけど、
星の並びには規則性があって、
これと、これと、これと…
これをつなげてみると、
はいカシオペア座。みたいな。
無数にあらわれると
捉えどころがないけど、
ある視点で部分的に篩にかけると
そこに意味が現れるっていうのが、
ふしぎで面白いなと思う。
よく観察したなあ。
大昔の羊飼いが
よっぽど暇でいて、
かつ熱心だったんだろうな。
*
ところで、
基本、身の周りは
分からない事だらけ。
あるはずなのに、
見えない、分からないことが
たくさん。
空気も、電波(光)も、
磁力も、重力も、自分の気持ちでさえも
どうして、そうなっているの?
ってよくわからない。
それこそ、
重なった文庫のページが
透けてごちゃごちゃな状況が
いつでも目の前にあるみたいな。
複雑に見えて、よくわからない
それでも、ときおり、
あ、わかった、と思うこともある。
あれは、複雑な星空から
いくつかの星をつなげて、
星座をみつけた、
みたいなことなんだろうな。
*
「ここはな、でっかい、
静かな夏の風たちが棲んでいて、
緑の奥深い場所を、
幻の鯨のように、人の目に触れずに
通り過ぎてゆく場所だよ。」
というのは、ブラッドベリの
「たんぽぽのお酒」からの引用なんだけど、
目に見えないとりとめない
「空気」のことを
こんなふうに想像してみると、
手に取るように、
見えてきそうだなと思える。
ぼくが、なにか「空気」について
表現しようと思うなら、
計測器具や科学の実験でその片鱗を
確かめられる証拠を得る、というよりも、
ブラッドベリのような、
想像するのが、楽しくなるような
フィルターを作れたらいいなと。
2020/08/01