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夏の空気、まぼろしの鯨

本を読むときに、
寝っ転がって読むことがある。

仰向けになって
ページをめくると、
ページと、ページの重なりが
窓の光で透けて、
文字がごちゃっと
密集して見えることがある。

そんなとき、
あ、なんかきれいだなと思う。

突拍子もないけど、
昔、長野の山荘に泊まった時に見た
星空が頭をよぎる。

星って、きれいだけど、
眺めていてもよくわからない。

だんだん、きれいさよりも
ごちゃごちゃの方が
比重が重くなって見えてくる。
とりとめのないかんじ。

とりとめがないんだけど、
星の並びには規則性があって、
これと、これと、これと…
これをつなげてみると、
はいカシオペア座。みたいな。

無数にあらわれると
捉えどころがないけど、
ある視点で部分的に篩にかけると
そこに意味が現れるっていうのが、
ふしぎで面白いなと思う。

よく観察したなあ。
大昔の羊飼いが
よっぽど暇でいて、
かつ熱心だったんだろうな。

ところで、
基本、身の周りは
分からない事だらけ。

あるはずなのに、
見えない、分からないことが
たくさん。

空気も、電波(光)も、
磁力も、重力も、自分の気持ちでさえも
どうして、そうなっているの?
ってよくわからない。

それこそ、
重なった文庫のページが
透けてごちゃごちゃな状況が
いつでも目の前にあるみたいな。

複雑に見えて、よくわからない

それでも、ときおり、
あ、わかった、と思うこともある。

あれは、複雑な星空から
いくつかの星をつなげて、
星座をみつけた、
みたいなことなんだろうな。

「ここはな、でっかい、
静かな夏の風たちが棲んでいて、
緑の奥深い場所を、
幻の鯨のように、人の目に触れずに
通り過ぎてゆく場所だよ。」

というのは、ブラッドベリの
「たんぽぽのお酒」からの引用なんだけど、
目に見えないとりとめない
「空気」のことを
こんなふうに想像してみると、
手に取るように、
見えてきそうだなと思える。

ぼくが、なにか「空気」について
表現しようと思うなら、
計測器具や科学の実験でその片鱗を
確かめられる証拠を得る、というよりも、

ブラッドベリのような、
想像するのが、楽しくなるような
フィルターを作れたらいいなと。

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