前髪のこと
「うつむくことが多いんです」と
言うと、勘違いされそうだけど、
本読むのも、何か描く/書くのも、
なにかにつけて
下を向くことが多い。
なので前髪が長くなってくると、
面倒なことになる。
ただでさえ眼鏡をかけているので
視界の角度が狭くなるのに、
黒い影(髪の毛)にさえぎられると
やりきれない気持ちになる。
TV台の上で眠るネコのせいで
映画の字幕がさっぱりみえなくなる
のと同じくらいいらだつし、
一人しかいないはずの部屋の端で
誰かが横切ったように思えて
いそいで振り向くがなにもない
のと同じくらい、
霊的な恐怖心を煽られる。
そう、ひどくなると
目の端にふらふらしている髪が
人影に錯覚してしまう。
ふと気がつくと、
直ぐ横にだれかいる!
と思って、ビクっとすることが
よくある。
ああ!また前髪にやられたのだ。
とてもくやしい。
*
たまにネコがなにもない空中を
じっと見つめていることがある。
え、なにかいるの?
と思って怖い。
怖いので、ネコをゆすぶるけど、
彼の視点はゆるがない。
やめてくれ!怖いぞ!
と同じように、
ぼくも、なんでもない時に
とつぜん顔をあげてしばらく
ぼんやりしてしまうことがある。
すると、後ろの方にいた人に
「え、何かいるんですか、
何もないですよね、怖いですよ。
やめてください。」
と言われる。
それで、だって前髪が人に
見えるんだもん、と言っても
なかなか信用してもらえない。
*
これが人生においてどんな教訓を
示しているか、というと、
床屋に行け
ということなんですよね。
2013/07/02