不思議な彩り
不思議なものにひかれます。
たとえば、
ブローティガンの「西瓜糖の日々」。
西瓜糖で作られた世界の物語。
西瓜糖ってなんだか分かんないけど、
さらさらしていて、透き通って、
光に当てるときれいなものなんだろうな。
この小説では、ほとんどのモノが
この西瓜糖を素材にして形作られている。
水中に立つ彫像。算数を手伝う虎。
曜日ごとに変わる西瓜糖の色彩。
松林に伸びる幅5フィートの送水管。
川の中で光る墓。ランタンをもつ少女。
まるで夜の散歩をしているような悦楽に
浸ることができます。
もっとここに居たいと思うような。
もう1冊たとえると、
ボリス・ヴィアンの「うたかたの日々」。
演奏をしてカクテルを作るカクテルピアノ。
音を奏でる陽光。水道管に住みつくウナギ。
鳩の頭をした男。逃げ去ってしまう靴底。
受付係にウインクする会員証。
黄色いハンカチから黄色だけが風に
なびいていってしまうという表現も、
あざやかで不思議。
*
自分たちが実際に見ている現実の
世界ではなかなか結びつかない出来事や、
ありえない現象が、
言葉の上でならまざまざと存在する。
言葉があったからそういう不思議で
あざやかな世界を想像できるし、
まるで本当にそこにあったかのように
感じることもできる。
「うたかたの日々」のまえがきにも
こんな風に書いてあります。
「〜中略〜(この物語の)強みはもっぱら、
全部が本当にあった話だという点にある。
なにしろそれは何から何まで、
ぼくが想像した物語なのだ。」
想像することができたなら、
それは全部、本当にあったことと
同じなんだという。
それはとても素敵なことだなあ、と
思います。
本を読むのが楽しいし、慰みになるのは、
そういうことが理由なんだろうな、
とぼくは思います。
2013/11/05