ホッとするタイプ
コップを洗って拭くまえに
逆さにして机に置いておく。
これでは、いくら下に布を
敷いていても、水滴は乾かない。
–
金属のざるに、使い終わった
缶詰の缶を、これまた
濡れたまま置いておく。
しばらくすると、
ざるがさび付いてくる。
–
ふだん、全然見えないし、
そんなものないと思っているのに、
一晩寝て起きると、床には
信じられないくらいの埃が
溜まっている。
–
レンジでラップをかけて
熱々に熱したものを、
外気にさらすと
とたんにラップが真空パックみたいに
ぺこーとへこむ。
あるいは料理中、
鍋のふたをしたまま
煮込んでいて、
火を落としてから、しばらく冷ますと
ふたがあかなくなる!
とか。
*
こういう現象の要因って、
人の目に見えていないところにある。
もし、水滴の動きが目に見えていたら、
コップ濡れたままを直に机にはおかない。
上を向けるか、下に隙間を作るか。
でないと、水の出口がふさがれる。
閉じ込められてしまう。
さびつくのも、
その化学変化の様子を、
もっと激しく音がなるとか、
缶が痛みとして訴えるのであれば、
濡れた金属を、金属の入れ物に
入れたりなんかしないだろう。
ほこりも、ほこりになる前の
ほわほわが目に見えるくらい
デカければ、
ちゃんと空気を換気せねばと
思うかもしれない。
空気がつぶつぶとして見えていたら、
開かなくなった鍋のふたのなかで、
小さくなった空気が押しつぶされている
様子がみえるだろう。
けれど、再び火をつければ、
小さい空気はたちどころにふくらんで
鍋のふたを跳ね返すのが、
見えるかもしれない。
*
モノが腐るのもそうだし、
人の細胞が入れ替わっている
様子もそうだし、
どうも、人の目には
重要なことが見えていない場合が
よくある。
洗ったコップを半分濡れたまま
布の上に逆さに置くような人は、
きっと、自分のことも、
何年も前からずっと変わらない
自分なんだ、
と思っているに違いない。
こんなに、変化する現象が
起きているなかで、人だけが
変わらない、なんて異常事態だ。
人も、常に変わっている。
体も、気分も。
そう思って、焦る人と、
ホッとする人がいるかもしれない。
ぼくはホッとするタイプ。
2017/12/08