ファンタジーの中のリアリティ
絵を描こうと思うときに
途方もないなあと感じるのは
設定と構造について。
たとえば、
サーカスを舞台にした絵本を
描くとき。
それがどんな大きさのテントか、
どんな形状なのか、収容人数は、
舞台と客席の距離感はどのくらいか、
柱はどこと、どこに建っているか、
舞台裏や、客席にわたる通路は
どこに?
想像がおよばない。全く分からない。
そもそも、サーカステントの構造に
興味を持ったことがないし。
当然のことと言えば当然。
でも、描くなら知っておかねば。
…と、きっかけは上の通り。
どんなものであれ、理由があると、
調べものは俄然、楽しくなる。
サーカステントの構造に
今のところ興味がないあなたも、
「ファンタジーの中に
リアリティとして表現を落とし込む」
という文脈で、どうか読んでおくれ。
とお願いしたい。
*
そもそも、テントって
建築用語でいうと「膜構造」と
呼ばれていて、
大きく分けて3つのタイプがある。
1、骨組み膜構造
2、空気膜構造
3、サスペンション膜構造
自分が、ぼんやりでも
イメージしていたのは、どれだ?
1は、キャンプのテントみたいに、
骨組みの上に服を着る具合に
布が被さっているやつ。
シルクドソレイユみたいな、
大型のサーカステントは、
これなんじゃないか。
2は、東京ドームみたいに、
中の空気圧を高くしてふくらませるやつ。
骨はなし。
3は、柱を軸にして、布を吊って、
ピーンと張るというタイプ。
昔ながらの中型サーカステントはこういうの。
描きたいのは、これだった。
*
ちなみに、サーカステントを建てるには、
日本なら建築基準法に法り、
「仮説許可申請」を提出する必要があるらしい。
つまり丈夫で、防火素材なども使っていて、
簡単には壊れたり燃えたりしません、
という信頼が必要だ。
もう少し具体的に考えると…、
耐火規定(耐火素材の柱、布を使用し
近くには消防用のホース車待機させます)
用途地域(一定の広さの公園を選びます)
居室の採光(布は遮光性ありなので
照明にて一定の明るさは担保)
換気・排煙(メットライフドーム
(旧西武ドーム)方式で、
換気の隙間あり)
*
「ことばサーカス」の物語上、
テントの中で打ち上げ花火をあげたり、
巨大お化けが、テントを突き破る、
というくだり(サーカスの演出として)
があるので、
役所に申請を出すときも、
打ち上げ花火のことや、天井の布を
突き破る内容も、事前に
打ち合わせておかなければ
ならないはずだよな。
お客さんからクレームが入って、
初日で「公演中止」になったら、事だ。
大赤字にも、ほどがある。
*
まず、打ち上げ花火。
調べると、最も小さいものでも
30メートルの高さまで打ち上がる。
さらにそこから、
直径50メートルの球状が花開く。。
これをテント内で打ち上げるなんて
絶対無理じゃない。。?
お客さんに当たったらやけどするし。
まあ、熱対策としては低温花火を
使うとして、
あとは、テントの内部の高さは
10階建てのビル相当は必要だ。
なるほど。そこは考慮しましょう。
外観規模としては、このくらい。
客席は大体300人くらい。
間近で花火の爆発を見るなんて
どうかしている。
見え方ももしかしたら、
河原で見るのとは違うかもしれない。
全体で花開いていつつ、もっと近くの
現象も目に入ってくる。
ちいさな星のような、じりじり飛び回る
火の玉のような、
きれいな小型花火虫みたいなのが
ピョンピョンはねて、
お客さんの目の前で踊っている。
というイメージで絵を描きたい。
とにかく「目の前」での花火が
危ないものとしてではなく、
あくまで、美しく、妖しく、
楽しいものとして魅せたい。
*
バケツと、オケがまざってできた
「けつおばけ」がテントを
破る演出に関しては、
着物の胸元のすそのような構造を
とる。
一見閉じられているようだけど、
二枚の布が重なっているだけで、
そこからするするっと、出たり
入ったりできる構造になっている。
これなら、テントに必要以上の負荷が
かからないで「ハプニング感」が
演出できるのではないか?
*
こういうふうに、リアリティを
求めていくと、どんどん妄想が膨らむし
絵を描くとっかかりにもなるし、
なによりぼく自身が、たのしくなる。
構造の分からないものを、
分からないまま、描こうとすることほど
苦痛なものはない。
*
それも、これも、
小学館から出ている
「映像研には手を出すな!」に
影響を受けたんだけど、
こちらも熱が上がったので、
ちょっと自分でも、
というつもりで書いてみた。
世界観の妄想は、細かい設定によって
膨らむものだと実感できた。
2018/07/08