クモの職場
最近、住んでるアパートの外階段に
でっかいクモがいる。
握りこぶしくらいのでっかいやつ。
最初にみつけたのは夜。
暗がりの空中に黒い影があって、
よく見たら、クモ。しかもでかい。
一瞬背筋が凍る。
でも、動いてないし、
ある程度距離があるとわかると
これは、いたずらしてやろうと思って、
足元に落ちていた、ちいさい葉っぱを巣の網に
投げ込んでみた。
すると、まるで、つもっていたほこりを
ぱらぱら落として蘇るミイラのように
ちぢめていた脚をゆっくりひろげて、
さっそうとかかった葉っぱのところへうごく。
気味が悪くてぞっとするが、ぞっとするだけ
反対にじっと見ていたくなる。
クモは、かかったものが獲物じゃないとわかると、
やれやれみたいな感じでくるくる糸をほどいて
ぽいっと葉っぱごと落とす。
そして、定位置に戻っていく。
とても器用である。
棒で退治しようかと思ったが、無害そうなのでやめた。
翌朝、ごみを捨てに外に出てみると、
クモはいなくなっていた。
でっかい巣には、セミの羽らしきもの、小さい羽虫が
風にゆれている。どこにいったんだろう。
*
うちのアパートは日が暮れると、ランプがつく。
おしゃれな傘がついていて、おもむきがある。
朝まで点いているので、夜中の間は
家の中まで、ぼんやりと電球色が入ってくる。
電気が灯る時間になって、
お茶を買いに外に出てみると、
やや、いるではないか、クモ。
思えば羽虫は光に集まってくる。
だから、夜にはいろんな小さい虫が集まる。
そうか、クモには夜が書き入れ時なのか。
せっせと巣を修繕しているのか、かかった虫を
捕まえているのか、働いている。
そして、翌朝、見るとまたいない。
クモの巣って、字のごときクモの住んでいる家だと
思っていたが、あれはクモの職場なのだ。
それ以後、見るたびに、ご苦労様です
と、声に出さない挨拶をかける。
2016/07/20