ぼくたちはお客さん
本屋で、「人生はニャンとかなる!」と、
「人生はワンチャンス!」を見つけた。
前から電車内広告で見て知っていたけど
あんまり手にとろうとは思っていなかった。
こういうのはちょっと…と思って。
でも、かなり売れているらしい。
シリーズ累計106万部と書いてある。
それを見ると興味をそそられるし、
「こういうのはちょっと」と思っていた
自分が間違っていたのかもしれない、と
思いあらためてしまう。
これは名言集とか格言集みたいなもの。
そこにかわいい猫や犬の写真がふんだんに
使われている。
全ページにミシン線が入っていて、
ここぞというページを切りとって
プレゼントもできるし、
部屋に貼って掛け軸みたいにすることも
できる。
*
名言は、過去の偉人たちの残した言葉。
ぺらぺらめくっていると、
グーテンベルグのページがあった。
肝心な名言の部分は忘れたけど、
そこに付いていた解説が面白かった。
グーテンベルクは活版印刷を
世界で初めて作ったドイツ人。
それまでの本はすべて手書きで
写本されていたみたい。
故に、本の価値は今よりも比べ物に
ならないくらい希少で貴重なものだった。
しかし活版印刷の技術を使えば、
もっとたくさんの人と共有可能になる。
これに興奮するグーテンベルクではあるが、
いざ、となると、技術の公開を
ためらい踏みとどまったのである。
なぜか。
価値のない本がたくさん出回って
しまうことを、恐れたためなんだって。
当時の本に対する価値が、
それほどまでに高いものだったのか、
と思って仰ぎみてしまう。
現在はむしろその逆に近い。
どんな人であろうと、そんなにお金がなくても、
内容の質が高くても、低くても、
とりあえず本の形に製本することができる。
なぜなら、ぼくたちは作家である前から、
「お客さん」だから。
この様をグーテンベルクが見たら、
どう見えるだろうか。
嘆かわしいだろうか、それとも
喜ばしき未来なんだろうか。
2014/10/13