のぼせてみる
新年だからなまけていたが、ふと
荒川洋治でも読んでみようと思った。
荒川洋治の詩集ではなくて、エッセイ集。
「ふと」というのには、
いちおう理由がある。
荒川洋治のエッセイは、
本の中継地点のような内容が多い。
本の紹介、というか、本を読んで
思ったことを中心に書かれている。
だから、読むと、読みたい本が見つかる。
湯舟につかりながら、じっくり読んでみよう。
*
荒川洋治『夜のある町で』(みすず書房)
内の「夢のふくらみ」では、
宇野千代の本のことが書かれている。
「不思議な事があるものだ」という小説で
1993年の正月号に発表されたもの。
小説の内容をかなり大雑把にいうと、
「大きな気持ちの方へ意識を向けること」
という意味合いを持つもので、
これからの一年を迎える正月に、
ぴったりだと思う。
電車の中でイヤホンをつけながら、
目を閉じ、口をふわふわさせながら
リズムにのっているような、
自転車に乗りながら、車の多い通りなら
ちょっとくらい声をだして歌っちゃう
みたいな、そういう、
のぼせた気持ちのときって、今なら
「自分はなんでもできる」と思えて
心がはればれしてくる。
大きく息をすって、胸を膨らませる。
自分が特別な存在だと思い込む。
宇野千代はそういう気持ちを意識的に
自分から選んでみることを勧めている。
*
「おとなになってからは世間の目や常識やで、
のぼせることがずいぶんむずかしくなる。
(中略)
遠くのほうから「のぼせるなよ」と
いっている人の生命のほうが、物足りなくて、
さびしげにも見えてくるものなのである。」
と言われると、そういう気もしてくる。
日々前向きな姿勢を、自分で選んで、
意識する事が、衣食住と同じく
必要だという。
そうか、と思って本を閉じる。
心持ちふくらんだように、ほくほく
湯舟から上がると、
つーん、と血の気がひく。
このくらくらがたまらん。
2016/01/04