くらやみあるき
最近、怖いなーという体験を
しなくなった。
特に真っ暗な場所に行くってことを
ずいぶんしていないなあと。
そう思って、おととしの夏に
近所の雑木林に踏み込んでみた。
そのときのことを時々思い出す。
*
雑木林の入口にやってきた。
申し訳程度にある街灯のあかりが
すぐそこで途切れ、
目の前には真っ黒がある。
ここに入るには、かなり勇気がいる。
事前に下見、懐中電灯、長袖、
虫よけ、走れるスニーカー、
念のため自転車を押していく、など
準備していくが、いざとなると
二の足を踏む。
この怖さは、実際に暗闇の前に立った
人でないと、わからない。
どうしても怖かったので、
「この雑木林は、よく通っているし、
ぼくにとったら友だち。
だから、大丈夫。
きっと守ってくれるはず」
そう思えば、すこしは安心して、
勇気も出る。
歩き出して見上げると、
空があかるくて、
梢のシルエットがすてきだなあ、
と思う。
そのうち、
暗闇の中心部まで足を踏み込むと、
雰囲気はがらっとかわる。
木のうねる音、不思議な風、
草のへんな匂い。
急に近づいてくる羽虫の音。
突如現れるお地蔵さん。
何を考えているのか分からない
初めて出会う大きな生き物が、
ぼくのことなどまったく知らない
というふうに林の中で忙しく
動き回っている。
足元からぞくぞくしてくる。
この雑木林は、ぼくの友だちだ
と思っていた自分が
バカだったな、と思えてくる。
はやく戻りたいと思うが、
進むのも、戻るのも、もう無理かも…
いざという時に押していた自転車に
またがって、先に向かってこぐ。
向こうに小さな灯りがみえた。
自転車を猛スピードでこぐと、
ふと目に映るものが、
ぜんぶおばけに見えてくる。
どういうわけか、自転車を
全力で追いかけてくる。
こわいこわいこわい!
冷や汗がじわー。
そのうち、だんだん、
晩御飯の匂いが漂ってくる。
フハっ!林を抜けた。住宅地だ。
窓の黄色の明かりと、
コンビニの青白い光、
車の赤いテールランプが
現実感。
唐突に現代にもどってきた、
という感覚。
*
話は変わるけど、
ちょっと前の台風で、
千葉が長い間、停電しているのを
ニュースでみて、
これは他人事じゃないなと。
電気に頼りすぎて、
そうじゃない暮らしに対応できない。
ザ現代っ子だなあ、と。
そんな自分が、暗闇と
どう向き合ったらいいか分からない。
体験の少なさにまずいなと。
そんな人は少なくないはず。
暗闇を歩くワークショップとか、
それを絵本にしても
価値があるんじゃないかな。
絵を描いてもらうなら、あのひと、
というめぼしが、ひそかにある。
2019/12/09