語感で風景をあじわう
これはフェチといっていいのか、
きもちよい語感を浴びたい
という気持ちがある。
どんなのかっていうと…、
立原えりかの「花びらいかだ」から
抜粋。
–
その夜は、星が、あんまりいっぱい
でていましたので、
町はふかいみずうみのそこへ、
しずんだようでした。
みちも、なみ木も、ずっとたかい
ところにたっているヒライしんも、
星からおちてくる、
あおいしずくをあびて、うっとりと
ねむっていました。
–
うーん。ここちいい。
ひらがなが多いのが
やさしい印象を与えてくれる。
夜空と、湖とを結びつけて、
星からは、あおいしずくが落ちてくる…
まるで世界がさかさまになって、
空に深い水が沈んでいるかのような
印象を持たせてくれる。
ポイントは、避雷針。
まるで雷を思わせる鋭さが、
星のかがやきを強めてくれるような
言葉同士がきれいに反響し合って、
ひとつの風景となっている。
*
一倉宏「ことばになりたい」より
抜粋
–
ね
ほら
磨かれた
グラスの中に
朝の光とつめたい
ミルクが注がれるから
カリカリに焼いたベーコン
をのせたサラダなら あなたは
残さず食べるから すべては思い
どおりではなくても …
–
これは、実際の本では
消え入りそうな新緑色で印刷されていて、
改行によって段落全体が滴のかたちに
模られている。
語感のトーンと、色と、レイアウトが
こんなにもマッチするのか、と
目からウロコな一篇。
*
「プラム・クリークの土手で」
ローラ・インガルス・ワイルダー
恩地三保子訳
より以下抜粋。
–
わらは、日光に照らされ、あたたまっています。
小麦の粒を噛んでみたときより、
ずっといい匂がしました。
ローラは、わらに顔をうずめ、ぐっと目を
つぶると、深く深くその匂いを吸いこみました。
–
黄金色で、ふわっとした空気に
つつまれたような気持ちになれます。
*
「水晶」
シュティフタ―
手塚富雄・藤村宏訳
雪山で夜を過ごす二人の兄妹が
空のあけていくのを見ている
というシーン。
–
緑にかがやき、しずかに、
しかも生き生きと、
星のあいだを縫って流れた。
と見ると、弓型の頂点に、
種々な度合でひかっている光の束の群が
王冠の上べりの波形のように
立ちのぼって、燃えた。
その光は、あたりの空を照らして、
あかあかと流れた。
また、音もなく火花を散らし、
静かにきらめきながら、
ひろい空間をつらぬいた。
–
シュティフタ―は、自然を観察する
人なので、その分描写も事細か。
ちょっともたつくようでもありながら
ゆっくりと、太陽のひかりがはじける
様子を描いている。
特に「音もなく火花を散らし、
静かにきらめきながら」
ここがいい。
音がないって、
遠くにあってそれゆえ巨大なものってかんじ。
*
もっとあるけれど、
きりがないので、これでおしまい。
物語であれば、
風景(やその様子)の描写と、
物語を進行させる描写とが
まざっているけれど、
ひたすらきれいな景色を描写しつづける
文章というものをあまり見ない。
そういうものがあってもいいな、
とぼくは思う。
2020/09/18