納得するためのおとぎ話
チェコの作家カレル・チャペックの
『チャペックの犬と猫のお話』に
「テリアはなぜ地面を掘るのか」という
話が出てきます。
チャペック氏が愛犬のダーシェンカを
写真に撮るために
じっと座らせておきたくて、
ダーシャちゃんにおとぎ話を
聞かせてやります。
「いい子でお座り、ダーシェンカ、
動き回らないでね、ピントを合わせて
シャッターを切るだけだから、
すぐに済むよ。
その間に、何かお話を聞かせてあげよう。
テリアはなぜ地面を掘るのか、という
お話にしようかな。」
という書き出しから始まります。
…園芸にも、ただならぬ関心をもつ
チャペック氏の大切な花壇を、
子犬たちは
無心になって掘り返してしまう。
これはなぜか(かいつまむと)
フォックス・テリアの祖先が
ずっと昔、タタール人との戦いで
名誉ある勇敢なしっぽを
切り落とされてしまったのだが、
テリアたちは、未だにこのしっぽを
探して地面を掘るのだ、
というのです。
*
そもそも、本能的な衝動には
理由なんてないのかもしれないけど、
彼はダーシェンカのために、作り話を
こしらえた。
ひょっとすると、花壇を
掘り返してしまう残酷なテリアたちを
許してあげられるように、
チャペック氏は自分で
納得したかったのかもしれない。
*
「どうして今、自分はこんなことを
してるんだろう」という疑問は
犬ばかりではなくて、
人間にも同じように湧くものです。
やっぱり、そもそも理由なんて
本当は無くて、
とにかくやるしかない、という
ものなのかもしれないけど、
時どき自分を説得するとか、
納得させるために、
いろいろと過去を振り返ったり、
身の回りを観察したりして
証拠物件を探しそうとします。
(ダーシェンカの話を読むと)
ああ、そういうのも、結局は
おとぎ話を作るようなことなんだなあ
と思ったりします。
現実にあるものを切り貼りして
いいおとぎ話をこしらえたいものです。
2013/12/19