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ヒキガエルの改心

ケネス・グレーアムの
「たのしい川べ」(岩波少年文庫)を
読みました。訳は石井桃子。
 
主人公はモグラとネズミなのだけど、
後半あたりから
ヒキガエルってのが活躍する。
 
この人が自分と重なってしまって、
読んでいてハラハラする。
 

 
ヒキガエル君は、
豪邸屋敷のお坊ちゃんなのだけど、
抑制がきかないお調子者。
 
車を乗り回して事故をおこし
警察沙汰になり、
行く先々で迷惑事を引き起こす。
 
唯一の美点は心から反省の色を
見せることなのだが、すぐに
気分を取り戻し、自分のことを
自慢に思ってしまう馬鹿で
「高慢ちき」な奴なのである。
 

 
挙句の果てに、
とうとう牢屋に入れられる。
「これで世の中はおしまいだ。
すくなくともヒキガエルの前途は、
おしまいだ。」と涙をこぼすのだが、
あることをきっかけにして、
脱走が成功する。
 
それを自分の実力だと思い込み
気を大きくして、出会う人ごとに、
騙し、盗み、また事故をおこし、
警察におわれながらも
なんなく逃げおおせてしまう。
 
自分のやったことが
うれしくてたまらなくなり、
「やっぱりヒキガエルだ!
最後には、いつもヒキガエルの
勝ちなんだ!」とさけぶのであった。
 

 
しかし、家に戻ろうとすると、
ヒキガエル屋敷はイタチどもに
乗っ取られていた。
そしてまた、今までの自分のことを
馬鹿だったと反省するが、
アナグマ、ネズミ、モグラの三人が
強力な助っ人となり、屋敷を取り戻す。
 
そして、その三人はヒキガエルを
強くたしなめる。
これを気に、人格を見直せ!という。
 
しかし懲りないヒキガエルは、
三人に内緒で自分のしてきた冒険談の
歌と公演パーティを企てていた。
 

 
ここまで読んで、ぼくは苦しかった。
どうしてどうして、
ヒキガエルは、心から反省するそぶりを
見せながらいつも友人を裏切るんだ、と。
そして次を読んでさらに苦しくなった。
 
もうすぐパーティが始まろうという時、
ひとりヒキガエルは部屋に
閉じこもって、歌をうたう。
観客を想像しながら、
渾身の感情をこめてうたう。
 
そして、そのあと、
ながいながい、
深いため息をつく。
 

 
いざパーティが始まってみると、
ヒキガエルはすっかり改心して
自分の自慢話などせず、
アナグマや、ネズミや、モグラの
おかげで屋敷を取り戻せたのだ、
と感謝を述べ、自分以外の他人に
関心を寄せる。
 
ここで、本当にヒキガエルの心が
動いたのだ。
 
いままでの自分が本当に
間違っていた、と、
あの「ため息」で悟ったのだろうか。
じぶんの誤りを認めるのは、
身をちぎるほどの恐ろしさだろうな。
 
ぼくは、読んでいて、
自分もヒキガエルだと思った。
しかしぼく自身、ヒキガエルのように
改心できているのか、
と思って、恐くなるのでした。
 

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