カメレオン語
カメレオン語というものがある。
アクセル・ハッケ作の
「キリンと暮らすクジラと眠る」に
そのことが書かれている。
*
かいつまむと、
私たちはカメレオンのことを
単なる「恥ずかしがり屋」なのだ
と思い込んでいる、という。
文章の中にでさえ、ときどきぱっと
姿を消してしまうほど
引っ込み思案だと思ってる。
(以下引用)
「〜(略)カメレオンという単語を書けば、
これらの活字がすぐに紙の色に
染まってしまい、薄くなって
消えていくのだと。
しろうとの目にはどう見ても、
単に五文字分ほど抜けているとしか
思えない、 という
妙な空白があったとする。
でも動物学者の鋭い目で見れば、
ちょうどこの空白の部分に、
すっかり白くなっておびえきっている
カメレオンがいるのを見逃さない
だろうにってね。」
なるほど、町を歩いていても
カメレオン語は見つかる。
古びた公共の看板によく見かける。
*
「自転車をご利用の方、
スロープは ください。」
こう肝心なところが
消えてしまっている。
よく見るとうっすらと赤い字で
「降りて」と見える。
これもカメレオンの仕業だろう。
*
ほかにもこんなものが。
「不燃ゴミは、 曜日」。
分からない。
どうにも困っちまう。
*
その横にはまたすごいものが。
「ここはゴミ捨て場ではありません。
捨てた者は により
固く罰せられます。」
どんな組織に
罰せられてしまうのだろう。
これはどんなに目を凝らしても
見えない。完全に消えている。
なんだか怖い。
こいつは単なる恥ずかしがり屋
ではない、私たちを恐怖に陥れようと
しているに違いない。
2013/03/30