worksは8/24に更新しました.

くさくて楽しい散歩

趣味はなんだろうと考えると、
散歩だな、と一番に思う。

今の時期マスクをしながら歩くんだけど、
だんだん息苦しくなってきて
人の気配のないところでは
鼻だけ出して、深呼吸。

すると、軽い空気が
ふわっと入ってきて
いろんな匂いがする。

マスクをして匂いを感じていなかった分、
余計に新鮮に嗅げる。

木や花の匂いとか、
土の匂い、ほこりっぽい匂い
湿った感じ、たまに生ごみみたいな匂い、
排気ガスの匂い、
線香や、リンスみたいな人工的な匂いも。

場所によって匂いは変わる。
ということは、匂いにも輪郭がある。

ここからここまでは、
この匂いの範囲、みたいな。

匂いが目に見えたら面白いだろうな。
臭い匂いもあるけれど、
総じて心地いい。

匂いは、光や音のように、波ではなくて、
物質らしい。モノから揮発?して
空気に取り込まれ直接、鼻の中に入る。

目の感覚受容体が4つに対して、
匂いの受容体は400ほどもあるらしい。

その匂いの魅力は、不思議だなと
思う。

その代表として、
ムスクという匂いがある。
なんとなく聞いた事あったけど、
ちゃんとは知らなかった。

嗅覚はどう進化してきたか
新村芳人著(岩波科学ライブラリー278)

を読んで、思わずのめり込んでしまった。

樹木からとれる乳香、没薬、
花びらから香油、精油として、
匂いの素を作り出す。

それは、とてもわかる。
いい匂をとり出そうという試みだから。

その中で奇特な人がいろんな
試行錯誤の間で、
ありとあらゆるものの匂いを
抽出しようと試したのだろう、

ムスクにたどり着くのである。
麝香(じゃこう)ともよばれる。

ムスクは動物からとれる匂い。
ジャコウジカの香嚢からとれる。

以下そのまま引用
「香嚢はオスのみがもつ。
下腹部の睾丸の近くにあり、
クルミほどの大きさで毛に
覆われている。」

そのものは強いアンモニア臭を
もつのだそうだが、
エタノールで希釈すると
「えもいわれぬ芳香」なのだそう。

龍涎香(りゅうぜんこう)も
クジラが消化しきれなかった
胃の内容物の塊。

コピ・ルアクというコーヒーは
ジャコウネコが食べたコーヒーの実の
排泄物で淹れたコーヒーとのこと。

ただ、この作文では匂いまでは
伝わらないのが残念。。
(もし、上記の内容をみて、
「うえっ」て思った方は、じつは匂いに
ではなくて、人生経験の中で
培われた刷り込みの一つかもしれない)

排泄物は汚い、臭い、嫌悪、
という概念を捨てて、
そこに踏み込んだ非常識な人々が
生んだ奇跡の匂いといっても
過言ではない…。

臭さが、豊かで奥深いいい香りとして
変化を遂げる。

好きな本の中でも
香水 ある人殺しの物語」(文春文庫)
(パトリック・ジュースキント著)
に一時期のめり込んで読んでいたのも、
いい匂いか、臭いかにとらわれず、
「匂い」そのものに強烈な関心を注いでしまう
話だったからなのかも。

舞台は18世紀のフランス。

「食べ物と病の匂い、水と石と炭と皮の匂い、
石鹸と焼き立てパンの匂い、
酢で煮立てた卵の匂い、ヌードルや
磨きたての真鍮の匂い、
サルビアやビールや、涙の匂い、
脂や湿った藁、また乾燥した藁の匂い。
何百、何千もの匂いが、
ねっとりした粥状に、
通りの谷あいを満たしていた」

匂いの不思議なのは、
言葉だけでも、なんとなく
想像がふくらむこと。

これを読むだけで、なんか気持ち悪くなる。

けれど、主人公の青年は、
匂いに超人的な才能があった。
匂いだけで、手に取るようにすべてが
分かる。
それゆえに、注意深く匂いを
確かめながら生きていく。

…そういう感覚を想像しながら、
散歩をすると、とてもたのしい。

« »

サイト管理