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幸福の土地

シュティフターの「水晶」(岩波文庫)
を読んでいると歩きたくなりました。
 
この「水晶」は、1850年代頃に
出版された小説。
山奥の盆地にある二つの村が
舞台となっています。
 
ごく簡単に言えば
この二つの村を一組の兄妹が
行き来する際に起こる事件の話。
 

 
村と村は山を隔てているうえに
交通の便も発達していないため、
殆どの人はそこを歩いて行かなければ
ならないのでした。
 
その距離は、歩いておよそ3時間。
 
小学校高学年くらいの兄のコンラートと、
低学年かそれより小さい妹のザンナが
たびたび祖母の家に遊びにいくのに
ふたりは山を越えていく。
 

 
読書をしていてふと思う事がある。
 
自分が体験したことがない話を
本で読んだときに、その内容を
手放しに信用していいものか。
 
「3時間」という距離はいかほどか。
これを確認してみたくなったのです。
 
そこで歩く事にしました。
 

 
ある帰り道、だいたい目星をつけた駅で
途中下車して、ぽつぽつと歩き始めました。
 
はじめのうちはわくわくして
歩を進めるのだけれど
次第に足が重くなってくる。痛くなる。
でもここで中断するわけにはいかない。
 
まだここは本の中では、山のど真ん中。
こんな寒さの中で野宿するわけには
いきません。
 
実際ぼくの歩いた道は、
新青梅街道という大きな通りだったので
車の通りが激しく、一本道でもあったし、
だんだん飽きてくる。
 
小さなビルが密集し、人よりも
車の方が多い。騒音はしても
どこか閑散としている。
通りは広いのに狭苦しい。
 
とうとう3時間が経ちました。
じぶんの家がある狭山丘陵にさしかかると、
くたくたな気持ちは一気に和んできました。
山なりに高い所から木々がこちらを
見下ろしている。
心が広い人のところに帰ってきた、
という感じがしました。
 
そう言えば、「水晶」を読み終わったのも
ちょうど3時間でした。
 

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