ことばのロボットいろはちゃん 更新2020/8/5

匂いの版画

絵を描いているときに、
聞いていた音楽、流していたアニメって
すごくよく覚えているんです。

いつでも思い出せるわけでは
ないですが、
時間が経ったあとでも
その絵を見ると、
あ、このときこんな音楽聞いていたな、
とか、あのアニメのこのシーンだった、
みたいに
ふぁーっと思い出されます。

記憶しようとしているわけでは
ないんだけど、ほとんど自動的に。

まるで有用性のない能力の
一つなんだけど。

同じような現象としては、
一般的には匂いと記憶が
セットになっているっていいますよね。

沈丁花とか、きんもくせいとか
際立って香るものも
季節感を呼び覚ましてくれるけれど、
地味な(あるかないか、わからないような)
なんでもない匂いにも
記憶が残ってることがあります。

それが空気の匂い。

空気の匂いって、
普通は「無」のように思えるんだけど、

朝まどを開けた時とか、
しばらくマスクをしていて、
人のいないところで外して
深呼吸したときとかに
「あ、空気の匂い!」

ってなることがあります。

ゆっくりすいこんでいくと、
空気は胸の中でちいさな花火を
ぱちんとひらかせ、
懐かしい景色を一瞬
明るく灯してくれるような…

そんなポエムな感情を
呼び起こしてくれます。

あれってなんなんだろうと
想像しているのですが、
お湯の中のお茶のパックみたいな
ものかもな、と考えてみました。

お茶の葉を、お湯の中に入れると、
ゆらゆら溶けだして、
お茶色に染まっていくんですけど、

空気も同じように、
いろんなものがお茶のパックみたいに
つねに空気に溶けだしていっている
と思うんですよね。

実際、顔を水で洗うと
すーっと涼しくなって、
タオルでふかなくても
自然とそのまま乾くのは、
熱や水分が、空気に溶けだして
いくからなんです。

空気は、「ある一帯」の
景色を吸着させた匂いの版画みたいなもの。

それが、長いこと移動して、
遠い町のぼくの家の窓まで
降りてくる。

その時に、その空気を吸った
ぼくの胸にしみ込むんです。
匂いの版画の風景として。

あ、なんだか
懐かしい気持ち。

空気の匂いは、
風景の記憶なんだな。

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