ことばの実験室 更新2019/7/15

全身で想像力

うどんを食べながら
ぼんやりテレビを見ていたら、
若い女子のタレントが
動物園にいるキリンに、餌を
あげているところだった。

にょろっとキリンの舌が
のびると同時に、
女の子はぎゃっと飛び退いた。

キリンの舌ごときで、
そんなに驚くなよなーと…
思う一方で、
あの感じは馬鹿にならない…
という気もしてきた。

よくマンガとかで、
蜘蛛が目の前にツーって垂れて、
「わーっ!」
みたいなことがあるけど、
それを、ただ、
「びっくりする記号」とでしか
認識していない…のでは。

つまり、
マンガや、テレビが人生経験の
多くを占めてしまった挙句、
「本当の感覚」を失っていたのでは…
と。

と思ったのも、
実際に本物の蜘蛛を
体験したからであった。

西武池袋線「仏子」駅から
少し歩いたところにある
名もない雑木林に、
探検しに行ったんだけど、

住宅地から舗装されていない
小道が現れ、
進んでいくと、
さらに木々のトンネルとなり、
次第に足元がふかふかし、
時々ばきっとなり、
前触れもなく葉影で何者かが
うごめき、ふと、顔をあげると、
目の前に巨大な蜘蛛が
巣を張っていた。

「ぎょっ!」

こ、こわっ!
頭を深く下げて、くぐろうとしたが、
おでこのあたりに
糸が、つん、とかかり、
つられて髪の毛に舞い降りた
巨大蜘蛛が、にょきにょきと
襲ってくるような気がして、
声にならない叫びとともに、
全力疾走する。

昔みた「 プロヴァンス物語
マルセルの夏」という映画で、
蜘蛛がいるからこの先に進めない
という女の子を
木の棒で巣を破り、足ですりつぶす
マルセル少年の勇敢さを
思い出す。

あれは、本当に
勇敢なんだなあと、
情けなくなる。

頭でイメージして、怖いとか、
やばいぞ、っていうことは
頻繁にあるんだけど、
全身で「ぎゃっ」って感じる事って
そう起きない。

どんどん、そういうことを、
忘れてやしないか。

想像力っていうけど、
まっくらな雑木林にひとりで
立ちすくんだ時の、
怖さの想像力は、
机の上で考えるのとは違って、
体全身の想像力ってかんじ。

かなり怖くて、無理なんだけど、
そういう体験はたまにした方がいい。

雑木林を抜けると、
濡れたような
車のテールランプと、
ガソリンスタンドの青白い光で、
あ、戻ってきたな、と思う。

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