ことばのロボットいろはちゃん 更新2020/8/5

くうきにも個性がある

通っていた大学が、
八王子の山腹に要塞のごとく
建っていたこともあって、
授業に出るかわりに
よく裏手の山を散策してまわっていました。

坂を下っていくと
みょうな風が吹いてきて、

なまあたたかいのにまじって
下の方からすーっと涼しいくうきが、
感じられたんです。

頭でイメージしたのが、
中学校のころ美術の時間でやった
マーブリングの技法みたいなもの。

くうきが、いろんな温度や、匂いによって
さまざまに形や重さ(密度)をかえながら
…つまり、
あやふやながら境界線をもって
うごいているということなんだな、と
思ったんです。

夏の坂道を自転車でくだっていくと、
あるところから、ふわっと
涼しいくうきにもぐったり。

冬の住宅街をぬけて、畑の横をとおると
急にくうきもはりつめ、冷たくなったり。

くうきは目にみえないけれど、
体感として、そこにある境界を
感じることがあるなあと。

そしてなんといっても、
その境界線の動きこそが風、
なんです。

あたたかく、ふくらみ、
希薄になったくうきによって、
まわりの冷たいくうきが
背もたれをうしなったのように、
(おっとっと、とたおれるように)
引っぱられる。

そんなふうにして、
あっちのくうき、こっちのくうきの
均衡のとりあいで、
地球のくうきはめぐっている。

「風といっしょに」という
アーサー・ビナードさんの詩がある。

「かわいた風が
いつでも吹いている高原では
目をつむってもわかる、
いまの風がどこからやってきたか。

東風はウシノケグサを
ざやざや鳴らしながらくるので、
ウシノケグサの青い匂いがする。
西風には西の岩山の
赤い土ぼこりがにおう。

…以下略」

くうきのことを、
「くうき」と一括りで言ったり、
「くうき」と「風」を別モノとして
捉えたりするから、
くうきの正体がわからなくなる。

くうきは、いった先々で、
温度や匂いを抱えてくる。

あるいは、
雨や雷でキレイになったりもする。
植物の中をひとめぐりして
生まれ変わったり、も。

くうきにはその時々で個性がある。
だからこそ、うごいて、めぐっていく。
そして自分のなかにも。

そもそも、くうきって、
そらの上までずーっと溜まっていて、
成層圏の上の外気圏(宇宙空間との境目)
の辺りでは、
海みたいに、くうきのさざ波が
ただよっているのかなあと想像する。

すきとおったうつくしいくうきが
音もなく、
はぜているんじゃないかな。

みたいな。

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